騒ぎはむしろヒートアップの傾向
現地2020年2月7日、アストロズのイリーガルなサイン・スティーリング・スキャンダルに新しい事実が出ました。
当該スキャンダルは現地2020年1月13日にMLBオフィスが調査に基づいて公式に声明を発表。A.J.ヒンチ監督とジェフ・ルノーGMに厳罰が下されました。またそれを受けてアストロズ側でも独自に処分を敢行。2人が解雇となったのでした。ところが、その処分決定後もこの騒ぎは収まらず、選手側からも立腹のメッセージが出るなどまだ収まる兆しは見えておりません。
ここまでは”player-driven.”
これに関与したとされる当時アストロズのベンチコーチであったアレックス・コーラはレッドソックスの監督を解任され、また関与を取り沙汰されたメッツのカルロス・ベルトランも新監督決定を白紙にされるという処分がここまでのところ。
ここまでの処分はプレーヤー・ドリブン(Player Driven)、つまり一連のスキャンダルは現場手動で勝手にやったことというロジックで進んできました。
ところがそれを覆す資料が出てきて騒ぎになっているのがこの2月のフェーズです。
WSJが新事実をレポート
ここに来て出てきたのは経済紙のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が暴いた事実です。WSJのジャレッド・ダイヤモンド氏(Jared Diamond)が非常に興味深いレポートを公表。
そのポイントをまとめて行きます。
”CODE BREAKER” または”DARK ARTS”
WSJによると、サイン・スティーリングのスキーム(計画を伴う枠組み)が導入されたのは2016年9月。驚くべきことに開発者はインターン。内部ではその解読プログラムを「Codebreaker」、ときには「Dark Arts」と呼んでいたようです。これが後にデバイスを使ったサインスティーリングの基礎を築いたのでした。
このプログラムはExcelベースのアプリケーションだったようです。相手チーム、投手、捕手、サインの形を蓄積する訳ですからそうなりますよね。瞬時に判断できるようにVBAなのか、SQLでも使ったのかデータベース系の知識のある人が運用面も考慮して使いやすくしたのではないかと筆者は推察します。精度を高めて行ったのは分析部門のスタッフです。
ホーム・ロード双方で使用
このシステムは2017年シーズン全般、2018年シーズンの一部で、アストロズのベースボールオペレーションの担当とビデオルームのスタッフがホーム・ロード双方で使用していたことが明るみになっています。
明らかになった運用はかなりリアルなもので、スタッフがキャッチャーのサインとそれに伴う投球をスプレッドシートに記録。「Codebreaker」はサインが異なる投球についてもどのように関連するか判断するような設定にしていたようです。そしてそれらから得た情報は、ベースランナーなどの仲介者によって打者に伝えられる仕組みでした。
なお、ゴミ箱たたきによる通知は皮肉にもその進化系です。おそらく現場ではその運用が一番ラクだったのでしょう。
今回のレポートでわりとショッキングだったのはロードでもやっていたという点ですね。
一連のコードブレーカーの告発だけでも”Player Driven”、選手主導、つまり現場レベルだけで運用されていなかったことは容易に推察できるというのも今回のレポートのポイントでもあります。
フロントも関与。ただし、ローレベル
WSJはまずルノーGMがこの「コードブレーカー」を確実に知っていたと告発。関与を示唆するメールもたくさん見つかっています。
それが大前提ですが、WSJのレポートおよび他のMLBジャーナリストらの情報から、関与が示唆されている複数のスーツ組がおります。スーツ組はルノーだけの処分でいいのか?ということも言えるでしょう。名前を上げてみるとご覧のメンバー。いずれも処分なしです。
デレク・ビゴア(Derek Vigoa)
何を隠そう、この人がコードブレーカーを紹介した元インターンです。現在はベースボール・オペレーション部門のチーム・オペレーション、シニア・マネージャー。
ケビン・ゴールドスタイン(Kevin Goldstein)
ジェフ・パッサン氏のレポートによると、スカウトに他のチームのダグアウトにカメラを向けるように依頼。現ベースボール・オペレーション部門のGM付スペシャルアシスタント兼プレーヤー人事担当。
トム・コッホ・ヴェーザー(Tom Koch-Weser)
“Our dark arts, sign-stealing department” と言及。かなり手広くデコード・プログラムに関与している可能性あり。現ポジションはアドバンス・インフォメーションのダイレクター。あくまで独り言ですが、ド直球という気がしないでもないです。
下記引用は2017年8月26日にコッホ・ヴェーザー氏が送ったメールです。
“On Aug. 26, 2017, in another ‘road notes,’ Koch-Weser wrote: ‘
The system: our dark arts, sign-stealing department has been less productive in the second half as the league has become aware of our reputation and now most clubs change their signs a dozen times per game.’ He added that struggling teams like the Toronto Blue Jays and Oakland Athletics ‘seem not to care as much.'”
我々のサインスティーリング部門である「ダーク・アーツ」は後半に入り効果が薄くなってきている。というのも他のクラブが気づくようになってきているからだ。ただ、ブルージェイズとアスレチックスだけは十分にケアしていない。
https://bleacherreport.com/articles/2875319-astros-use-of-codebreaker-in-cheating-scandal-detailed-in-new-wsj-report
とは言うものの、実はアスレチックスは次年度になりますが、サイン・スティーリングには気づいていました。
Report: A’s believed Astros were stealing signs during late August game
フロントオフィスの上流にまで及ぶか
よって、フロントオフィスも関与しているとも言えるのではないか、本当にルノーだけの処分で良いのかというWSJの問題提起でもあります。
なおジェフ・ルノーにはこんなレポートもありました。今回の調査でMLBが派遣した調査員から「コードブレイカー」に関する質問を受けた際、このように語ったそうです。「インターンのPowerPointスライドを覚えているが、以前のゲームのサインを合法的に解読するために使用すると考えていた」と。いかがなものかというロジックですね。
口酸っぱく現場に関与するオーナーもいるでしょうが、そうでないオーナーもおります。ジム・クレーンがどうかはわからないのですが、フロント・オフィス・トップの関与がどのレベルまで達するか?という点が明らかになることもこの問題の収束の鍵かもしれません。
ヒンチのインタビュー
A.J.ヒンチ元監督はMLBネットワークのトム・ヴェルドゥッチ(Tom Verducci)とのインタビューを行いました。 VTRは現地2020年2月7日に公開され多くの反響を呼んでいます。
ヒンチ元監督は、チームの行動が間違っていること、そして不正行為を止めるリーダーシップ力と責任を個人的に行使しなかったことを無条件に受け入れています。ヒンチ元監督は確かにモニターを破壊するなど不正にNOを突きつける行動をしたことのは事実らしく、監督としての責任、不正に関する不作為を認めている点は良いと思うのですが、ただ全体を通して、暗に認めていないのは不正への関与。これもなかなかのロジックを使っていますね。
インタビューの大きなポイントはこの質問だったのではないか?と思います。
質問:アストロズの2017年のタイトルは汚れていますか?
ヒンチ:「それは公正な質問です。誰もが自分の結論を導き出さなければならないと思います。時間とともに、このチームの才能と、現在の選手とキャリアのデモンストレーションを期待しています。スポーツ全体で最高の選手たちが同じチームに集まっています。時間が経つにつれて、そうではなかったことが証明されることを願っています。しかし、私はこの質問を理解しています。」
ちょっと回りくどい言い方なので、恐れをいとわず平たく要約するなら、今いる選手達はタレントの持ち主であり、今後サイン・スティーリングがない状態でも彼らがそれまで以上の成績を収めるなら、それがなかったとしても彼らは結果を出せたのだ、そんなふうになることを希望しているという意味ではないかと思います。
ただ、皆が知りたいのは正々堂々さを失って、不正を働いても意図的にタイトルを獲りに行ったのか?という点だと思います。上記のヒンチの回答はアストロズがチャンピオンシップにふさわしい才能のあるプレーヤーを持っているかどうかということであり、質問の回答とは別の問題のようにも思います。
MLB選手達は一連の不正行為に相当怒っているという事実は、野球の面白さを損なったというだけでなく、彼らの生活にもダイレクトに反映した部分があるからでしょう。
モートンも真摯に後悔
2017シーズン、アストロズの投手としてマウンドに上がったチャーリー・モートンは現地8日(土)に行われたレイズのファンフェスタに出席。地元紙タンパベイ・タイムズとのインタビューの中で、アストロズの選手が2017年シーズン中、どのようなピッチが来るのかを打者に警告する仕組みについて知っていたが、それを止められなかったことに後悔していると語りました。
このスキャンダルが野球の試合にダメージを与え、その中にいた者として責任があったことを真摯に認めました。
モートンは2017年と2018年にアストロズに在籍。2017年のワールドシリーズでドジャースに対して10.1イニングで1.74 ERAを記録。
コメント
ルーノウの辣腕+非情エピソードとして「トラックマンによるデータ解析を高評価しておりスカウトマンのクビをきりまくった」というものがありますが、スカウトにサイン撮影を指示していたとなると違う側面もうかがえますね
irolyn様
こんにちは。ルーノーあきませんね。映画、「人生の特等席」のATLのGMみたいなやつですね。多分。
コメントありがとうございました。
ヒンチのインタビュー、全部見てないですがやっぱり期待はずれ(ある意味期待通り?)のものだったみたいですね。
ただdark arts(闇の魔術)って呼び方はセンスあって好きです、darkだと思うなら使うなよと思いますけど。さしずめヒンチはスネイプかな?
かなすけ様
こんにちは。弁護士を雇っているのでしょうけど、ロジックがもう言い訳する人のロジックでしたね。自分の否は認めているけどそれはマネジメントの部分であり、不正には関与していないというスタンスがどうも。また、相手の質問が終わらないうちからかぶるように答えるものその種の人がよくやる戦法ですね。まあ仮に自分が彼の立場だったなら、その論法しかないか?とは思います。勇気がいるでしょうね。スポーツマンゆえに勇気を発して欲しかったとは思います。心理学的見地からみれば面白いかもしれませんね。
たしかに呼び方にセンスはありますね。コードブレーカーとかダークアーツとかwww。
コメントありがとうございました。