名医による将来を考えた手術が成功
現地2023年9月21日、エンゼルスがレイズとのシリーズで遠征に出たタイミングで、大谷選手はロサンゼルスで右肘の手術を実施。成功しました。
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— Los Angeles Angels (@Angels) September 19, 2023
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執刀した医学博士のニール・エルアトラッシュ(Neal ElAttrache)氏によれば「大谷選手とともに熟考した末に、最終的に目の前の問題を修復して健康な靭帯を補強する一方で、肘の寿命を延ばすための組織を追加した」ということでした。
2024年の打者としての開幕にも太鼓判
また同博士は「私は完全な回復を期待しており、2024年の開幕日には何の制限もなく打てるようになり、2025年には(打撃と投球の)両方をこなせるようになるだろう」という力強いコメントも寄せています。
また大谷選手自身もインスタグラムでこの状況についてコメント。 「今朝早くに肘の手術を受け、すべてうまくいきました。 皆さんの祈りと温かい言葉に感謝しています。 今年をフィールドで締めくくることができなかったのはとても残念ですが、最後まで応援しています。 できる限りハードワークし、これまで以上に強くなってダイヤモンドに戻ってこられるようベストを尽くします。 Go Halos(=Go Angels)」
エルアトラッシュ医師はスーパードクター
執刀したニール・エルアトラッシュ博士は、大谷選手の前回の2018年10月のトミージョン手術も執刀した先生です。
ロサンゼルスのカーラン・ジョーブ整形外科クリニック(Kerlan-Jobe Orthopaedic Clinic)のスポーツ医学を専門とする整形外科医で、膝、肩、肘の怪我の治療と研究で知られている方です。
「カーラン・ジョーブ」という病院名が示す通り、ニール・エルアトラッシュ博士は、日本でも有名なあのフランク・ジョーブ博士が創設した病院に在籍しており、いわば、ジョーブ博士のお弟子さんに当たる先生です。
さらに同博士は、ロサンゼルス・ドジャースのチームドクターを務めます。この時期にドジャースと聞くと、FAの問題とリンクしそうになりますが、そういうことではなく、もともとお師匠さんのジョーブ博士ご自身もドジャースのチームドクターを務めていました。いわば、クラブとのメディカル契約です。
同博士は他にもロサンゼルス・ラムズのチームドクターを務めていますし、病院のホームページにはエンゼルスのロゴも貼られています。また、NHLのロサンゼルス・キングス、アナハイム・ダックス、NBAのロサンゼルス・レイカーズのメディカル・コンサルタントなども兼任。
さらに、アメリカ整形外科スポーツ医学会元会長、整形外科スポーツ医学の専門家から選出された民間団体のヘロディカス学会元会長などの権威もあるほか、「米国スポーツ医学専門医トップ19」、「北米肩関節外科医トップ20」「LAスポーツ界で最もパワフルなトップ50」など各有名紙による数々の評価においてもトップランクに位置する先生で非常に有名な方です。
手術をした有名人はわかっているだけで、NFLのパッカーズのQBアーロン・ロジャース、元ペイトリオッツのQBトム・ブレイディー、NBAのコービー・ブライアント、MLBではザック・グレインキなど。ハリウッドの患者さんもおり、アーノルド・シュワルツェネッガー、元ビートルズのリンゴ・スターらも。
一言で言えば、「スーパードクターが執刀しました」。
手術の内容は?
ニール・エルアトラッシュ博士も大谷選手のエージェントのネズ・バレロ(Nez Balelo)氏もどのような手術をしたのかは具体的には述べておりません。
ただ、「目の前の問題を修復して健康な靭帯を補強する一方で、肘の寿命を延ばすための組織を追加した」とあるように、まずはやはりUCLが損傷していたことは確かであったということ、そして後述しますが、損傷の度合いは完全な断裂ではなかったことが伺えます。
おそらくインターナル・ブレース手術
あくまで推測の域を出ませんが、今回の処置はどうやらインターナル・ブレース手術であったと思われます。
トミージョン手術とインターナル・ブレース
近年まで、UCL断裂に対する外科手術の選択肢はトミー・ジョン(UCL再建術)しかありませんでした。しかし近年、非常に高い成功率を誇る新しい手術が普及し、この状況は一変しました。それが UCL修復術(インターナルブレース)です。
これははっきりとは言えないのですが、どちらを選ぶかはやはり損傷の重度によるのではないでしょうか?完全断裂なら再建のトミー・ジョンというケースが多いと思います。
大谷選手の場合、完全断裂ではなく局所断裂だったのではないか?と思います。
UCL再建術(トミー・ジョン)
トミー・ジョン手術は古典的なUCL再建手術で、外科医は手首の腱(長掌筋)かハムストリングの腱を使い、元のUCLが付着していた場所と同じ、内側上顆と下結節の両方に付着させて靭帯を再建させる手術です。この付着には色々なテクニックがあり、クリニックによって処置の仕方は分かれるようです。
つまりは靭帯を作り直す方法と言えるでしょう。メリットはかなりの確率で復帰できるも、復帰までが長い。
UCL修復術(インターナル・ブレース)
一方、インターナル・ブレースとはUCL修復術とも言われ、トミー・ジョン手術とは異なり、損傷したUCLを修復させる手術法。Braceとは一般的に「2つのものを固定する留め具」という意味で使われますが、ここでもその意味のようです。具と書くと金具をイメージしてしまいますが、繊維系の素材を使うようです。
どういうふうに修復させるかというと、既存の損傷した靭帯を高強度の糸で縫合したり、靭帯が骨から剥離した場合は、縫合糸アンカーでUCLを再接着して修復。さらに、修復された靭帯を保護するため、コラーゲンでコーティングされた高強度テープを貼るなどして修復するようです。
メリットは復帰までが短いこと。デメリットはトミー・ジョン手術よりもまだ症例が少なく、成果を掴みきれていないところでしょうか。
比較:トミージョン手術 vs インターナル・ブレース
復帰への主なタイムフレームを比較するとご覧の通りです。インターナル・ブレースの方がかなり早期に復帰できます。
トミー・ジョン手術の場合、じっくり治せば18ヶ月かかると言われますが、インターナル・ブレースの場合、1年弱での復帰が見込まれます。
「プライオメトリック段階」とはいわゆるなじませる期間です。ここからして両者に違いがあります。
主なタイムフレーム | TJ (トミージョン) | IB (インターナル・ブレース) |
---|---|---|
プライオメトリック段階 | 3ヶ月半~5ヶ月 | 12~14週間 (2.8ヶ月〜3.3ヶ月) |
投球練習開始 | 5~5.5ヶ月 | 14~16週間 (3.22ヶ月) |
ブルペン | 10~10.5ヶ月 | 24週間(5.52ヶ月) |
ライブBP 試合形式 | 12~13ヶ月 | 30~33週(~7カ月) |
投球への平均復帰期間: | 11~14ヶ月 | 6.7ヶ月 – 9ヶ月 |
前回の手術
前回はエンゼルスでの最初のシーズン後の2018年10月1日にトミー・ジョン手術を受けました。再建の場合、度目の手術は1度目よりもリスクが高いとも言われますが、近年ではネイサン・イオバルディやジェイムスン・タイヨンなどが実施して効果を発揮しています。たぶん二人とも再建の方だったと思われます。
投手継続の強い意思
エージェントのバレロ氏は大谷選手はは投手を続ける強い意思があることもコメント。「翔平は投げることが大好きで、彼の心の中には、復帰して両方を続けるという選択肢しかない」と。
2023年7月5日の誕生日で29才になった大谷選手は、2024シーズン途中で30才となり、2025年は31才となります。
二刀流をどう継続するかというプランがこれで見えてきました。オフにFAとなりますが、今回の手術と大まかな復帰スケジュールは大谷選手獲得を考えるクラブに判断材料を与えたことでしょう。
ワールドシリーズ終了までまずは待つというところでしょうね。
お読みいただき、ありがとうございました。
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