ブルージェイズ、早くも「売り」姿勢の表明?
現地2024年7月11日、かなり驚きの動きがありました。トロント・ブルージェイズがこのオフにFAでサインしたOFのケビン・キアマイアー(Kevin Kiermaier)をウェーバーにかけました。なお、ブルージェイズは現時点では公式に認めていませんが、ほぼこの手続きの入ったのは間違いないところです。
今季、苦戦のキアマイアー
現時点で43勝50敗のトロント・ブルージェイズはア・リーグ東地区最下位。ワイルドカード枠に入るには現時点で勝敗が逆の状態になっていないとかなりのミラクルでも期待しない限り、ポストシーズン進出はかなり厳しいという状況。
そのブルージェイズはチームOPSが.686でMLB21位。チームERAは4.33でMLB23位です。
そんなブルージェイズの中で最も苦戦しているのがこのケビン・キアマイアー。出場ゲームも93試合中、71試合にとどまり、AV.191、OBP .238、SLG .295、OPS .533とチームの中で70試合以上出ている中でドールトン・バーショウとともに打率1割台と苦しんでおります。
DFAではなく、ウェーバー
そんなキアマイアーに対し、ブルージェイズが採ったのはウェーバーにかけるという方法でした。
仮にDFA(Designated for Assignment)なら、即座にメジャー枠(40manロスター)から外れてしまうことを意味し、ここ数年大物選手のシーズン途中のDFAが話題になっております。
A・プホルズの例
例えばアルバート・プホルズはエンゼルスからDFAとなった後、その手続として即座に40manロスターから除外。DFAの場合はここがまず重要です。
DFA後はそれから7日以内に、トレードされるか、アウトライトウェイバー、またはアンコンディショナル・リリース・ウェイバーにかけられます。トレードされる場合はトレードDLの期限前にDFAされた場合です。
アウトライト・ウェーバーもアンコンディショナル・リリース・ウェーバーもいずれもイレボカブル(irrevocable)。つまり取り消し不可(撤回不可)です。取り消し不可とは、選手をウェーバーに出した後、他のクラブに獲られそうになった時に、引っ込めることが出来ないウェーバーのこと。
アウトライトウェイバーをクリアした場合、その選手はそのままマイナーリーグに移籍することができます。MLBでのプレー年数が5年以上の選手はマイナーリーグへの移籍を拒否することができ、MLBでのプレー年数が3年以上の選手、または過去にアウトライトされたことのある選手は、FAを選択することができます。その選手がアンコンディショナル・リリース・ウェイバーをクリアすれば、無条件でリリースされます。
プホルズの場合、ウェーバー公示のあと、”Cleared weaver”、つまりウェーバー公示期間にクレームオフ(獲得)されず、このままリリース、そしてFAとなりました。もし手を挙げたクラブがあった場合は残りサラリーを新たに獲得したクラブが引き継がないといけないので、高額年俸のプホルズにはそれはほぼ0%でした。
お金の面で言えば、エンゼルスは契約期間のサラリーを支払い、次に獲得したドジャースはメジャー最低年俸の残り日数の日割りだけで良いことに。そしてエンゼルスはその日割り分が差し引かれるというものでした。
レボカル・ウェーバー(取り消し可能)
今回、ブルージェイズはキアマイアーをDFAではなく、ウェーバーにかけたことでアクティブ・ロスターから外れていません。その場合はウェイバーに公示されている間もプレーを続けること可能。事実、キアマイアーは現地2024年7月11日のジャイアンツ戦に8番CFで出場。しかもマルチ安打を放っております。
ウェーバーの種類としてはオプショナル・ウェーバーに近いものですが、これはマイナー・オプションが残っている場合に使用するもので、ケビン・キアマイアーにそれが残っているのか?と言えば、かなりの確率で残っていないのではないか?と思うので、ウェーバーの種類としては特定しにくいです。
今後は?
もしキアマイアーがウェーバーをクリアすれば、つまりどこからも獲得の手が挙がらなかった場合は、ブルージェイズは以下の3パターンの手続きを押し進めます。
- マイナーへアウトライト
- リリースする
- このままロースターに残す
3に関しては残すのなら、どうしてわざわざウェーバーにかけたのか?ということになるので、これはないのではないでしょうか。
ではブルージェイズの狙いは何か?と言えば、キアマイアーを引き取ってもらい、残りのサラリーを肩代わりしてもらうこと。DFAならブルージェイズが残債も支払うことになるからです。
今季のキアマイアーのサラリーは1年/$10.5M (2024)。今季の残額はおおよそ$4.5Mです。これを削りたかったわけですね。
2023年のエンゼルスの手法
かつて2018年までは7月末のトレード・デッドラインと8月末のトレード・デッドラインの2つがありました。前者はウェーバー公示なしでトレードできる期限のこと。後者はポストシーズンへの出場の期限という意味で設けられていました。2019年、MLBとMLBPAは8月のトレード期限を廃止し、期限を7月に一本化することで合意。
今回のブルージェイズのキアマイアーへのウェーバーは2023年にエンゼルスが採った手法。エンゼルスは2023年のトレード・デッドラインで強気の「買い」を選択。
理由はポストシーズンに出たい大谷選手をつなぎとめるため。ところが、エンゼルスは肝心の8月に大大失速。ポストシーズン出場がなくなりました。その後はコスト削減モードにスイッチし、8月末にルーカス・ジオリト、マット・ムーア、レイナルド・ロペス、ハンター・レンフロー、ランダール・グリチャック、そしてドミニク・レオンをウェイバーに出し、他クラブが彼らを引き取り、年俸を負担してくれることを願いました。
この甲斐もあり、エンゼルスは贅沢税の基準額をわずかに下回り、贅沢税の支払いを免れたのでした。
ブルージェイズは2023年は贅沢税の基準額を超えました。$233Mのラインに対して約$257M。今季も$237Mのラインに対してすでに$247M。なんとしてもあと$10Mを削りたいわけですね。
GG賞4度のキアマイアーはどうなるでしょうか??あまりにも打撃で苦戦しているのが「次」を難しくしています。
お読みいただき、ありがとうございました。