見事なNO-NO
もう様々なところで話題に上っておりますが、現地2020年9月13日、ミラー・パークで行われたカブス@ブルワーズ戦でキャリア初のノーヒットノーランを達成したアレク・ミルズ(Alec Mills)についてその魅力的なストーリーについて記したいと思います。
まずは、ゲームの模様です。
9回、114球、BB 3、SO5
初回を三者凡退に抑えて上々の滑り出しとなったアレク・ミルズ。初ランナーは2回裏で、ベン・ギャメルへの四球でした。ベン・ギャメルの打席では大きく、ブレーキの効いたカーブを2球ミックス。惜しくも四球となりましたが、これが次打者のオーランド・アルシアに効きました。
アルシアにはカーブはなく、シンカーと4シームのファストボールで2Bゴロに仕留め、この回を切り抜けました。
アレック・ミルズと捕手ビクター・カラティニのバッテリーはこういった伏線をうまく利用して打者の裏をうまくかいていたと思います。
このゲームのアレク・ミルズの成績は9回、114球、与四球3、奪三振5。
4つの速度帯
アレク・ミルズが投じていたのは、4シーム、シンカー、チェンジアップ、スライダー、カーブの5種類。
- 4シーム/ シンカー:88mph – 92mph
- チェンジアップ: 82mph-83mph
- スライダー:76mph-78mph
- カーブ:最遅 66mph
このうち、4シームとシンカーはほぼ同じ速度帯で、面白いのはチェンジアップがスライダーより速いこと。スライダーも速度的にかなりブレーキが効いているのも面白いです。
そして何より、武器はカーブですね。このようなブレーキのかかるカーブが、ファストボールをより速く見せていたと思います。
ジェイク・エアリエッタ並みのインステップ
アレク・ミルズのファストボールが良くて92mphなのには理由があり、それはかなりインステップしていることです。あれだけ内側に踏み出していれば、ベロシティーは抑えられてしまうと思います。その代わりにインステップすることで、ボールのキレを生み出していると思いました。
多かったAO(エアー・アウト)
良くて92mph、アベレージでおそらく90mphに達していないであろうアレク・ミルズのボールに恐ろしくキレがあった思われる証拠に、ブルワーズ打線のAO(エアー・アウト)の多さがあります。
この日はGO(グランドボール・アウト)が10で、AO(エアー・アウト)が11。ゴロよりライナー、フライ、ポップフライが多かったというのが打者がボールの下を叩いていたという証拠ですね。
AOのうち、通常のフライボール・アウトは2個、ラインアウト(ライナーによるアウト)は5個、インフィールド内に落ちたポップフライ・アウトが4つもありました。ポップアウトを取った後は、カラティニもガッツポーズというところだったでしょうか。
力と技を駆使した見事なノーヒットノーランだったと思います。
アレク・ミルズのネバー・サレンダー人生
アレク・ミルズは1991年11月30日生まれの28才。テネシー州の出身です。
超がつくほどの無名選手
大学はテネシー大学 – マーティン(The University of Tennessee at Martin)。マーチン校と言えばいいのかもしれませんが、この大学は野球では全くの無名。
過去のアマチュア・ドラフトにおいても、1976年から2014年の39年間で指名されたのは、アレク・ミルズを含めてたったの6名。ほとんどが遅いラウンドでの指名で、メジャーに到達したのはアレク・ミルズ一人という大学です。なおNCAAには所属しています。
ドラフト22巡目指名
大学には2010年から2012年まで所属。リリーフから始まり、3年時にはエースに。大学通算で67登板、13勝、165SO。
出身大学の歴史の中ではすごい数字だったようですが、スカウトからすると目立たない存在。
2012年アマチュアドラフトで22巡目でロイヤルズが指名。全体順位は673。ちなみに2012年の全体1位はカルロス・コレア(アストロズ指名)。バイロン・バクストン、マイク・ズニーノ、ケビン・ゴーズマン、カイル・ジマー、マックス・フリード、アンドリュー・ヒーニーらも2012年ドラフトです。
つまり、言葉は悪いですが、化ければ儲けものというくらいのラウンドです。ロイヤルズも全く期待していなかったと思います。
2016年デビュー
デビューはロイヤルズ時代の2016年5月18日。ロイヤルズがワールドシリーズ・チャンプとなったのが2015年ですから、その翌年のことです。もうリビルドに入ってはいましたが、まだまだロイヤルズも前年の余力が残っていたシーズン。このシーズンは81勝81敗で、ALセントラル3位。
3ゲームにリリーフ登板し、ERAが13.50。
ロイヤルズからDFA
2017年2月、ロイヤルズがカブスからFAとなったジェイソン・ハメルを獲得したことで、アレク・ミルズはロスターを空けるためにDFAに。
このときにカブスとのトレードが成立し、カブス入り。2015年カブス2巡目指名の外野手ドニー・デウィースとのトレードでした。ドニーはシーズン前にドミニカウィンターリーグにも参加していましたが、COVID-19の影響によるマイナー・リーグ中止で現在はどうしているのかは不明です。
せっかくメジャーにまで上がったものの、再び降り出しに戻った形となりました。
2017年は足首の捻挫などもあり、マイナーに所属。
2018年と2019年は当落線上
2018年から2019年の2年間は、メジャーでの登板は7試合、9試合という状況でマイナーとの往復でした。ただ、2019年は9試合中、4試合に先発。リリーフも合わせて36.0イニングでERA2.75と非常に良い数字は残していました。
ホセ・キンタナの離脱でチャンス!!!
2020シーズン、チャンスが訪れます。カブスがローテーション要員として核としたベテランのホセ・キンタナが左手親指の怪我で離脱。ここでアレク・ミルズにチャンスが巡ってきました。
7月28日から先発ローテーションとしてマウンドに上がるようになり、このゲーム前まで、8試合43.2イニングを投じ、4勝3敗、ERA 4.74。特に直近の9月8日のレッズ戦では、6回を投げ、被安打4、失点0とととても良いピッチングを見せていたところでした。
J・ヘイワード「ミルズが投げている間は」
ミルズがノーヒットノーランを達成したこのゲームはカブスが12−0と圧勝。5回を終わって9−0というスコアでした。
デービッド・ロス監督はベテランのジェイソン・ヘイワードに交代のチャンスだと告げたのですが、ジェイソン・ヘイワードから返ってきた答えは、
「ミルズが投げている間は守らせてくれ」
でした。
実はジェイソン・ヘイワードはアレク・ミルズがカブスに移籍してきたときに最初に挨拶に来てくれた選手で、それ以来とても敬意と親しみをもって過ごしてきた選手。これを聞いてミルズもさらにエンジンが点火。100球を超えてノーヒットノーランを実現させたのでした。
VTRを見ると、ジェイソン・ヘイワードだけでなく、アンソニー・リッゾも我がことのように祝福する姿がありました。
アレク・ミルズはとても共感を呼ぶ選手ですね。
アレク・ミルズ、このまま良い投手へと羽ばたいていってもらいたいですね。
カブスには88mphを剛速球に見せるカイル・ヘンドリクスや、魔術師のような変化球を投げるダルビッシュ投手もいますから、勉強熱心ゆえにまだまだやってくれそうに思います。
なお、カブスのノーヒットノーランは2016年4月21日にジェイク・エアリエッタがレッズ戦で達成して以来となります。
また、ミラー・パークでのノーヒットノーランは、2008年9月14日にカルロス・ザンブラーノがアストロズ相手に達成して以来2人目。このとき、ハリケーンの影響でアストロズは一時的にミラー・パークを使用していた関係でアストロズ戦となっています。
まったくの無名右腕が諦めずに改善に次ぐ、改善を経て、大記録を達成した姿はやはりこみ上げてくるものがありますね。
お読みいただき、ありがとうございました。
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