案外簡単かも!MLBの贅沢税
ハーパーやマチャード、コーリー・クルーバーの移籍動向のニュースを見る上で、知っておきたいのがこの「贅沢税」の制度です。
年俸高騰抑止の罰則規定の認識だけでも
選手の年俸高騰を抑制するための罰則規定であることはイメージしやすいと思います。
大まかにはそれで済む話で、基準額は今オフは$206M。これを抑えておくだけでもニュースを読む上においては十分かもしれません。
ただ、もっとお知りになりたい方はぜひ以下にも目をとおしていただければ、よりニュースの輪郭もくっきりと把握出来ることは間違いなしです。よければお付き合いください。
贅沢税の英語での名称
日本語で言う「贅沢税」は英語では2パターンあります。 正式な言い方は”Competitive Balance Tax”(コンペティティブ・バランス・タックス)。通称としての言い方が”Luxury Tax”(ラグジュアリー・タックス)です。
よって、”Competitive Balance Tax”と”Luxury Tax”は同じです。
なお、略してCBTと呼ぶこともあります。
言葉の意味
”Competitive”とは「競合する」とか「競争の」という意味です。”Balace”はここでは名詞として使われていますが、自動詞の意味で考えるとわかりやすいです。自動詞では「均衡を保つ」とか「互いに打ち消し合う」という意味があります。単に「バランス=均衡」というよりはこの方がピンとくるのではないかと思います。
よって、飛び出たものを打ち消すための税であり、通称で「贅沢税」です。
ついでに”threshold”についても先に書いて置こうと思います。
”threshold”とは
これは日本語では「基準値、境界値」という意味で、理科系だと「しきい値」などを表す英語です。発音は「すれっしょうるど」で、「る」が小さい「ぅ」のような音に聞こえます。カタカナではあまり見たことはありませんが、「スレッシュホールド」でしょうか。
制度
制度の大まかな枠組みは以下のような考え方です。
- 設定されている年俸総額の基準額がある。
- その基準額を超えたら、超えた額に対して税率が掛けられ税額が決まる。
- 2年以上連続で超えたら税率が上がる
- 超過額によってはさらに税率がプラスされる。
CBAで定められている
基準額はCBA、”Collective Bargaining Agreement”(コレクティブ・バーゲイニング・アグリーメント)=「労使協定」に定められてます。
ちなみに”Collective”(コレクティブ)は名詞で、「労働者が集まる共同体」という意味。”Bargain”は「駆け引き、価格交渉、売買契約」という意味。お店でよく使われる「バーゲン」と同じ言葉ですが、その場合の意味は「格安品、安売り、特売品」などです。”Agreement”は「協定」です。
基準額(threshold)
2017年以降はCBAの2017-21年規定によって決められております。ご覧のように基準額は増加傾向。
- 2014-2016:$189M
- 2017: $195M
- 2018: $197M
- 2019: $206M
- 2020: $208M
- 2021: $210M
2018年が$197M(=1億9,700万ドル)で@¥110/USDで計算しますと、ざっと216億7,000万円。
今現在基準にされているのは2019シーズンに向けて準備しているので2019年の$206M。
年俸計算
課税の基準となる選手一人一人の年俸の算出ですが、支払い基準ではなく、年平均で計算します。たとえば5年$20Mで年ごとの支払いが3M+3M+5M+5M+4Mだったとしてもそれをフラットで$4M x 5で計算します。
2点の要確認点
- インセンティブも確定分は盛り込まれます。
- サラリーの確定時期は、シーズン終了後で40manの総額ということがわかりました。よってシーズン最後という意味の9月末日でよいようです。シーズン開始日、シーズンのある時期ではなく終了後。実際に各クラブの数字が出てくるのは12月クリスマス前後。
税率(2018年12月25日現在)
この税率は超過額に対してかけられるRateです。
- 超過1年目:20%
- 2年連続超過:30%
- 3年以上連続で超過:50%
- 基準額を下回ればリセットされる
ご参考までに、2012-16のCBAでは1年目が17.5%、2年以上連続では2、3、4年連続で30%、40%、50%という税率でした。
リセットの意味ですが、たとえば2年連続で基準額を超えていて、3年めに基準額を下回まわればそこでクリアー。3年めは当然贅沢税はかかりません。そしてもしその次の年にまた基準額を超えたら20%からスタートするという意味です。
超過額によるさらなるペナルティー
- 基準額の超過が$20M-$40Mだった場合:$20Mを超えた部分に12%課税
- 基準額を40M以上超えた場合(税率アップ):
- 1年目:$40Mを超えた部分に42.5%課税
- 翌年に再び$40M超えとなった場合:45%課税
- 基準額を40M以上超えた場合(アマチュア・ドラフトの指名権):
- クラブの一番高い指名順が10個下がる
- もしそのクラブが上位6番目までに指名できる場合は2番めに高い指名順が10個下がる 。(成績の悪かったチームほどドラフトで上位指名できるのでそのチームの指名が全体6位までに入っている場合はそこはプロテクトして、2番めの指名できる順位が10個下がるということ)
2018年の例
2018年の基準額は$197Mで、調べではレッドソックスとナショナルズが超過しております。
2つのクラブの状況がこちらです。さらに超過年数はレッドソックスが1年め、ナショナルズが2年連続という状況です。
年俸総額はトレードルーモアさんの本文についていたこれが一番正確かと思って参考にしました。
- レッドソックスの総額:$239,481,745-$197M = $42,481,745超過←$40Mを超えている!
- ナショナルズの総額: $203.3M – $197M= $6.3M超過←$2年連続で基準額超え。
レッドソックスの計算
- 税率適用の考え: 1年目の税率 超過部分に20%
- $20M-40Mの範囲に対して、+12% ※この部分は計32%の税率に
- $40M以上の部分に対して、+42.5% ※この部分は計62.5%の税率に
- 税額:$11,951,091
- ドラフト:33番目だったものが10番下がる
ナショナルズの計算
- 税率適用の考え: 2年連続なので30%。超過額に応じた税率は適用不要。よって30%のみ。
- 税額: 6.3M x 30%= $1.89M
参照サイト:
なお過去一度もCBTを払ったことのないクラブはこちら。
ヤンキース
15年連続で贅沢税を払ってきたヤンキースは2018年でいったんリセットとなりました。ここまで支払ってきた金額、$341M。3億4,100万ドルで、日本円にして375億円以上。
贅沢税の使いみち
なお贅沢税の徴収された金額は野球発展のために使われます。収益の少ないチームに分配するためのレベニュー・シェアリングとはまた別です。
年俸抑制の効果は出ている
例えば、このような報道がありました。
下記の記事は2018年のMLB全クラブの年俸総額が(どの時点の数字かがわからなかったです)が2004年以来初めて下がったというものです。
実際下がったのは$4,095,686から$4,097,122の$1,436。日本円で15万円ほど下がったというもので、さじ加減でどうにでもできそう数字ですが、それでも下がったことが数字で出ていることが重要で、FA選手の契約率のダウンはこの贅沢税制度の抑制効果も1つであるという内容です。
この制度があるがゆえに、選手の年俸高騰を抑制していると言えます。
念の為、制度の歴史
もともとはNBAやNFLで行われている選手の年俸の上限を決めるサラリーキャップがもとになった制度です。
MLBでもこれを導入しようとしたところ、選手会がこれに猛反発。1994年のストライキに発展しました。
このストによりNFLとの人気の差が決定的に開いたとも言えるでしょう。MLB離れを大きく招いた事件でした。
そんな中でMLBファンを再び球場に惹きつける選手が出てきました。それが野茂投手。
FA移籍報道を見るとき
なかなか個人でチームの年俸総額が今いくらかを把握するのは難しいですが、2019年に備えて選手を集めている今は、基準額$206Mを超えるかどうかに注目するのが一番いいかと思います。ただ選手の移籍などがあれば相殺されるのでちょっと置いにくいですね。
レッドソックス、ナショナルズ、そしてヤンキース、ドジャースなど資金力のあるクラブは贅沢税の制約がまとわりつくと考えて見るのも一つかと思います。
MLBに爽やかな風
1995年、野茂投手がドジャースでデビュー。金とかじゃない、とにかくMLBでやりたいんだという純粋な野球への思いが人々を再び球場に足を運ばせるきっかけとなったのでした。
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