変更点はやはりあの制度導入以降なのだが
現地2024年4月4日から6日にかけて一気に有名投手の肘のUCL損傷のニュースが入ってきました。
UCLとは?
UCLはUlnar Collateral Ligamentでアルナー・コラテラル・リガメントと発音し、日本語では尺骨側副靭帯(しゃっこつそくふくじんたい)のこと。当ブログを見ていただいている方には既知の単語ですが、念の為。
主な対処方法
一般的にはここを傷めるといわゆるトミージョン手術(再建)、インターナル・ブレース(修復型)、PRP療法で対処することになりますが、根本解決には、トミー・ジョン手術を採ることが多いです。大谷選手はインターナル・ブレース手術であろうと言われています。なお、表記は復帰に時間を要する順番で、トミージョンの再建型がもっとも時間がかかり、完全復帰まで18ヶ月(多少の個人差はあり、18ヶ月以内で復帰することもあります)。
衝撃的なのが、ここに来てエース級の投手が相次いで故障していることで、2024年にすでに素晴らしい投球をしているガーディアンズのシェーン・ビーバー、ブレーブスのスペンサー・ストライダーまでもがUCLを傷めました。
【1】シェーン・ビーバー(CLE):TJ決定
まずシェーン・ビーバーは2024年はすでに2戦に登板しており、2試合とも肘に痛みを抱えての登板であったと言われています。にもかかわらず、2戦2勝でERA 0.00。2戦とも6.0 IPで球数はいずれも83球。1戦目のオープニング・デーには11 SOをマークしました。
MRIの検診のプロセスを経て、ガーディアンズはシェーン・ビーバーがすぐにでもトミージョン手術を行うことを正式にアナウンスしました。シェーン・ビーバーは2022年にシーズン200.0 IPを経験。しかし、2023年は128.0 IPにとどまり、肘の炎症で60 Day ILに入っていた時期もありました。今季は上述のように幸先が良かったのですが、残念な結果に。これにより、仮に復帰が18ヶ月後だとすると2025年シーズンも終わってしまいますが、順調に行けば8月から9月にかけて復帰できるかもわかりませんが、これは症状を見ながらになります。シェーン・ビーバーは2020シーズンのALサイ・ヤング賞投手で、通算62勝32敗、ERA 3.22。2024年は29才のシーズンで、今季終了後にFA資格を得るところでした。
【2】スペンサー・ストライダー(ATL):損傷判明(処置未決)
さらに衝撃的だったのが、ブレーブスのオープニング投手のスペンサー・ストライダーです。筋骨隆々で特に下半身の太さは素晴らしく、投球フォームも下半身を存分に使った投げ方で肘への負担もそれほどないのでは?と踏んでいたのですが、彼も開幕2戦でUCL損傷が判明しました。ストライダーの場合、2戦目のDバックス戦が4.0 IPでER 5という彼にしては信じがたい数字を出し、どこか怪我でも?という登板があってのUCL損傷判明でした。
現地2024年4月6日の段階では手術の判断を下していません。セカンド・オピニオンも実施して早めに決断すると思われます。損傷の度合いはまだ公表されていませんが、程度が小さいことを祈ります。
追記: インターナル・ブレースへ
この記事の2度目の追記です。現地2024年4月13日、スペンサー・ストライダーの処置が決断されました。UCLにダメージがあるということで、シーズン・エンディングのインターナル・ブレース手術ということになりました。スペンサー・ストライダーはアマチュア時の2019年にすでに1度トミージョン手術を実施済み。今回はUCLの損傷が深刻というまでに至らず、インターナル・ブレースに収めたというところのようです。復帰に向けたはっきりとしたタイムテーブスはまだ出ていませんが、トミージョン手術よりも復帰時期は早いはずです。
【3】エウリー・ペレス(MIA): TJ決定
また、現時点で今季未勝利のマイアミは泣きっ面に蜂で、すでにエースのサンディー・アルカンタラをトミージョンのリハビリで欠く中、2023年に19試合に先発し、5勝6敗、ERA 3.15をマークして今季のローテーションの1人として当てにしていたエウリー・ペレスをトミージョン手術で欠くことになりました(現地2024年4月4日に発表)。
今スプリング・トレーニングでまずは右手中指の爪を傷めて離脱し(3月2日)、フィンカー・イシューのみかと思っていたのですが、3月16日に肘痛を発症。雲行きが怪しくなり、その後はスローイング・プログラムでマウンド・スローまで行っていたのですが、4月4日にトミージョン手術を実施することに決めました。
【4】ジョナサン・ロアイシガ(NYY): 前腕部の捻挫(処置未決)
ヤンキースの右腕、ジョナサン・ロアイジガは右肘に違和感を覚え、現地2024年4月5日にMRIで検診した結果、右前腕部の重大な捻挫が発覚。前腕部の捻挫はUCLの損傷につながるケースが多く、これが起こるとトミージョン手術に至る前兆のような実績があることから、彼も手術に至る可能性があります。もっとも、損傷の度合いははっきり公表されていませんが、やばい傾向です。
このように4月に入ってほんの数日でこれだけの有名投手が投球肘を傷めていることが明らかになりました。
2024シーズン前に肘を傷めた投手
その他にもシーズン前に肘を傷めた選手はご覧の通り。
- ゲリット・コール(NYY):UCLの張りと炎症(復帰時期は未定)
- ルーカス・ジオリト(BOS):UCLの部分断裂(手術へ)
- カイル・ブラデッシュ(BAL):UCLの捻挫(PRP処置済み。5月に復帰見込み)
- ホセ・ウルキディー(HOU):前腕部の炎症(2024年5月に復帰見込み)
また肩の方ではメッツの千賀投手、ブルワーズのブランドン・ウッドラフらが離脱しています。
2023年に手術した投手
2023年に手術をした主な投手は以下の通り。
- 大谷翔平選手(当時LAA):UCLダメージ(手術済み。2025復帰予定)
- ジェイコブ・デグロム(TEX):2023年にトミージョン手術
- サンディー・アルカンタラ(MIA):2023年にトミージョン手術
- トニー・ゴンソリン(LAD): 2023年にトミージョン手術
- マット・ボイド(DET):2023年にトミージョン手術
- シェーン・マクラナハン(TB):2023年にトミージョン手術
- ルイス・ガルシア(HOU):2023年5月にトミージョン手術(2024年7月に復帰見込み)
- クマール・ロッカー(TEXマイナー):2023年にトミージョン手術(彼は2023年にメジャーで投げていませんが、一応入れておきました)
このほかにももちろんいます。
追記:新たな故障者
この記事を書いて以降、さらに肘を傷めた投手が出てきました。
フランバー・バルデス(HOU):肘痛
2021年から3年連続2桁勝利をマークし、強いアストロズを支えた1人であるフランバー・バルデスも現地2024年4月8日に肘痛を発症。登板も急遽取りやめとなりました。現時点では状態の把握に努めており、今後の状態が心配されます。
ニック・ピベッタ(BOS):右肘屈筋の張り(リハビリ中)
今季、ここまでERA 0.82と絶好調だったレッドソックス右腕のニック・ピベッタも現地2024年4月9日、右肘屈筋の張りによりIL入り。ここを傷めるとUCLにもなんらかの影響があり、果たしてIL期間だけで済むのか、いささか心配でもあります。
ダニエル・バード(COL):右肘屈筋腱の手術(2024終了)
さらに、現地2024年4月13日、ロッキーズのリリーバーでかつてのイップスを克服したダニエル・バードはニック・ピベッタと同じ箇所である右肘屈筋腱を傷め、バードの場合、手術することが決まりました。これによりダニエル・バードは2024シーズンは終了ということになりました。
ボビー・ミラー(LAD):右肩炎症
ちょっとショッキングなのは、ドジャースのローテーション右腕で本土開幕後はタイラー・グラスノーに次いでNO.2ローテーションとして指名されていたボビー・ミラーが右肩を傷め、15Day ILに入ることになりました。4月13日の時点でMRIの結果が判明しており、重大なダメージはないことは明らかになっています。よって、ボビー・ミラーの場合はしばらく肩を休ませることでまた復帰できそうな状態です。このまま良い方向に進めば良いですね。
検証を要する事態
トミージョン手術はかなり前から発生していることですが、2023年からはあまりにも頻発しているのはさすがに検証を要する事案になったと思います。
ピッチクロックとの因果関係
2023年に何が変わったか?と言えば「ピッチクロックの導入」です。さらに2024年はランナーを背負った時の秒数が20秒から2秒減って18秒になりました。選手会はさらなる短縮は検証を実施してからという姿勢でしたが、フィールド・ルールは45日前にコミッショナー権限で変えられることから今季は短縮を実施しております。
急いで投球に入ることによる腕への負担は明らかではありません。ひょっとしたら2022年までの疲労の蓄積がたまたま同時期に出ただけなのかもわかりません・・・しかし、変更点がピッチクロックである以上、検証しないとなんとも言えない状況です。
滑るボール
2021年6月に外部物質による強粘着の取り締まりが実施されるようになりました。回転数を操作するくらいの強粘着物質の使用は取り締まってしかるべきですが、滑りを補完するための滑り止めは与えられるべきであり、それが今のロジンで十分なのかどうかは定かではありません。ただボールが滑れば指や腱に余計な力が入るので投球腕への影響があると見て良さそうです。この因果関係もぜひとも検証してもらいたいです。
東京五輪の時に、SSKのボールを触ったアメリカの投手は滑るボールはこれで解決すると言ったとも言われていますが、ボールの質も考えてもいいかわかりません。
登板間隔:やや改善している
かつてローテーション投手は中4日で回していましたが、今はどこも中5日を意識しているようです。NO.5まで揃えると中4日になるのですが、NO.6をオープナーで対応したり、可能な限り5日は空けるようにしているようです。休養が体の修復に効くのは当然のことで、ここはロスターを増やしたりしているので制度的にも多少は改善が見られているのかもしれません。
いずれにせよ、変更点は「ピッチクロックの導入」ですから、調べたほうが良さそうですね。
お読みいただき、ありがとうございました。
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