POBO(President of Baseball Operations)に就任
現地2023年9月12日のこととなりますが、メッツはクラブ史上初のPOBO(President of Baseball Operations)のポジションを定め、同ポジションにデービッド・スターンズ(David Stearns)を起用することとなりました。
こちらはレギュラーシーズン終了後の10月上旬に正式に就任発表が行われるため、まだオフィシャルではありませんが、不本意なシーズンが終了してすぐに再建に向けたスタートを切るため、いち早くトップの人事を固めたというところで幸先の良いスタートと言っていいかもしれません。
メッツとスターンズは5年契約で合意したと伝えられえおります。
エプラーはスターンズの下で
フロントオフィスは、オーナーシップ→オフィサー(役員)、BO(Baseball Operations)・・・という形で実務に近くなって行きますが、スターンズはそのBOのトップに就任ということに。
現在、メッツにはビリー・エプラーがGMロールとして存在していますが、彼の現在のタイトルは、執行役員兼ゼネラルマネージャー(Executive Vice President, General Manager)。
執行役員とは、経営陣(この場合はオーナー)が決定した方針に従って事業運営を担う責任を持つ役職。今季の場合だと、決定権者であるオーナーのスティーブ・コーエンの意思を執行する責任を負っていたということです。GMのかっこよさとは名前ばかりで、それとは裏腹に実務は想像以上に辛い中間管理職でもあります。
スターンズ就任後は組織の見直しもあると思いますが、いずれにせよエプラーはスターンズの下のポジションで働くことになります。
なお、サンディー・アルダーソンは、オフィサーに属し、タイトルはオーナーシップへの特別顧問(Special Advisor to Ownership)ということになっています。
ようやく空席が埋まる
スティーブ・コーエンがメッツのオーナーに就任した直後の2020年11月、メッツはデービッド・スターンズをBOのトップに据えようと画策していました。メッツは当時スターンズが所属していたブルワーズにポジション就任依頼のインタビューの許可を願い出ましたが、ブルワーズ側がこれを拒否。
メッツは仕方なくスターンズへのオファーを諦め、ジャレッド・ポーターをGMに起用。しかし、就任前の2016年に女性記者にセクハラを行ったことが明るみになり、わずか数週間で解雇されました。
その後、ザック・スコットがGM代行に就任したものの、2021年9月に飲酒運転で起訴されるという事態に。最終的には無罪放免となりましたが、クラブはすでに次のステップに進んでおり、2021年11月に前エンゼルスGMで、大谷選手を獲得したビリー・エプラーを同ポジションに採用しました。
このような経緯があり、メッツはもともとデービッド・スターンズを引き込みたくて仕方ありませんでした。他のクラブではGMの上にPOBO(President of Baseball Operations)を置いておりましたが、メッツはあえてこのポジションの設置を据え置き、スターンズ就任のまで封印していたような形でした。
後述しますが、デービッド・スターンズはブルワーズの編成の第一線からはすでに退き、オーナーシップとBOの特別顧問(Advisor to Ownership and Baseball Operations)という地位に就いていました。辞めた当時は今後もブルワーズに貢献するということを言ってはおりましたが、「メッツに移るんだな」というのは多くの人がわかっていたと思います。そして2023年8月1日を境に他との接触の機会が許され、今回、それが実現したということです。
デービッド・スターンズとは
デービッド・スターンズは1985年2月18日 生まれの38才。
2007年にハーバード大学を卒業し、政治学の学士号を取得。ニューヨーク、マンハッタンの出身で、現在は妻と2人の子どもとともにミルウォーキーに在住しています。
ハーバード在学中からすでにMLBに携わっており、2005年から2006年の夏にかけてピッツバーグ・パイレーツでインターンシップを経験。大学卒業後の2007年にはアリゾナ・フォール・リーグで野球運営担当のアシスタント・ディレクターを務め、2008年夏にはニューヨーク・メッツ傘下のブルックリン・サイクロンズで夏季インターンを経験。
2008年から2011年までは、コミッショナー事務局(MLBセントラルオフィス)で労使関係のマネージャーを務め、年俸調停プロセスを支援し、ユニフォームの選手契約を扱い、MLBの労使協定の交渉チームのメンバーとして活躍しました。
その後、2011年12月から2012年11月まではクリーブランド・インディアンスでベースボール・オペレーションのダイレクターとして従事。契約交渉、サラリー分析、チーム戦略、ロスター管理などを担当しました。
2013年から2015年までの3年間、ヒューストン・アストロズでアシスタントGMを務め、このときすでに経営陣の主要メンバーとして、分析、管理、選手育成、スカウティングなどベースボール・オペレーションの全領域を経験。
2015年9月21日、デービッド・スターンズはブルワーズに移籍。その約2週間後の2015年10月5日にフランチャイズ史上9人目のゼネラルマネジャー(GM)に正式に就任。なんとこの時、30才です。
スターンズがGMに就任してからのブルワーズは2017年から変化を見せ始め、2018年にNLセントラルで地区優勝。2019年もポストシーズンに進出。明らかにスターンズ効果でした。
スターンズは2019年1月23日にPOBO(President of Baseball Operations)に昇格。わずか33才での就任です!
スターンズがGMロールに就いてからのブルワーズは2016年から2022まで7年で4度のポストシーズンを経験。この良い流れは2023年も継続。今季も地区優勝が濃厚です。
このきらびやかなキャリアゆえ、デービッド・スターンズはMLBのフロントオフィスで最も尊敬されている経営者の一人として名声を上げました。
ジョシュ・ヘイダーのトレードが物議をかもす
そんなきらびやかなキャリアのデービッド・スターンズでも間違いはあるもので、それが現地2022年8月1日のトレード・デッドラインで起こったジョシュ・ヘイダーのディールでした。
7月末時点でブルワーズは2位カージナルスに3.0ゲーム差をつけて首位。ところが、このトレードの後、ブルワーズは負けが続き、1ヶ月後にはカージナルスに首位の座を奪われ、その後は首位を奪い返すことが出来ずにシーズンが終了。明らかにトレードの悪影響でした。ジョシュ・ヘイダーは2023シーズン終了後にFAになることから、契約延長を嫌ったブルワーズがそこを回避したがゆえのトレードでした。
このトレードで優勝を逃したことで批判されたデービッド・スターンズは現地2022年10月27日にベースボール・オペレーションズ部門のプレジデント職を辞しました。
上述の通り、オーナーシップとBOの特別顧問に就任していたのでした。
大きな課題
デービッド・スターンズはこれからかなり難しい課題と取り組まないといけません。
贅沢税の問題
一番の課題は湯水のように投資してきたサラリーのツケです。今季のメッツの40manの贅沢税上のサラリー総額はなんと$377M(現地2023年9月16日時点の計算)。レッドソックス時代のデーブ・ドンブロウスキーでもこんなに使いませんでした。むしろ可愛いものです。
今季の基準額は$233Mですから、空前の$144M超え。2022年も$299Mに達し、余裕の基準値超え。今季予想される税額は$104.5M。基準値をはるかに超えているのと2年連続の超過により、高いレートが適用され$100Mオーバーの税額です。これはパイレーツ、アスレチックス、オリオールズの贅沢税上のサラリー総額を超える額です。
ここまで投資してきて、2023年は現地2023年9月16日時点で68勝79敗でNLイースト4位。最下位のナショナルズにも3.5ゲーム差で追い上げを食らっている状況。トレード・デッドラインでも「売り」に走ったのは記憶に新しいところです。
1つ明るい要素とすれば、シャーザーとバーランダーのラグジュアリー契約がショートディールだったことです。
【シャーザーの残り金額】
- 2024年のサラリー$43.3Mは、下記の通り按分するということ
- メッツが$20.833M
- レンジャーズが$22.5M
【バーランダーの残り金額】
- 2023年と2024年を併せて$57.544M
- メッツが$35Mを負担。
- アストロズは$22.4M
- 2025はべスティング・オプションで2024年に140.0 IP+フィジカル良好で更新可
- 行使の場合、メッツ、アストロズともに$17.5Mを負担
正確な金額はちょっとまだ出ませんが、2人ともAAVが$43.3Mでしたが、2024年は少なくも二人で$43Mくらいにはなると思われます。
$10Mオーバーのカルロス・カラスコ、エドゥアルド・エスコバー等の負担も無くなり、2年ほどかけて基準額程度にまで持っていくと思われます。
ピート・アロンゾを取り込めるか?
優先順位とすれば贅沢税対策のロードマップの完成後となるでしょうが、生え抜きのピート・アロンゾとの延長契約をどうするか?も注目ポイントです。
アロンゾは2024年は調停のファイナルイヤーで、2024年終了後にFAとなります。まだ時間があります。彼と長期契約を結べばファンはスターンズの味方になるでしょう。
常勝クラブへ
詳細は明らかにされていませんが、スターンズがサラリーの制約が厳しかったブルワーズで行ったノウハウはメッツに引き継がれることになると思われ、大枚を叩かずとも常勝クラブにする可能性があります。
やはりレイズと同じで育成システムの構築ということになると思われます。ブルワーズの主力のコービン・バーンズ、ブランドン・ウッドラフ、デビン・ウィリアムスも決して最初からエリート・ピッチャーだったわけではありません。デビン・ウィリアムスは2013に2巡目指名で入ったので、高い指名順でしたが、コービン・バーンズは2016年の4巡目指名、ウッドラフは2014の11巡目指名です。どうやってものにしていくのか?のノウハウをなんらか持っていることは確かで、コーチの入れ替えなども出てくると思います。
そして市場での過小評価の選手がどうなるかの見極めのノウハウ。これらも活かされるでしょう。
2024年は大きな動きはないと思いますが、2025年頃から効果が出てくる・・・そんなシナリオになるかもしれません。
ウィルポン・ファミリーがオーナーを務めているときから、なかなか安定した力を発揮できなかったメッツ。そのジンクスらしきものが、スターンズ就任で変わるのか?にも注目しています。
お読みいただき、ありがとうございました。
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