ライバルとの最後の対戦日に解任
現地2023年9月15日、ボストン・レッドソックスは、CBO(Chief Baseball Officer)の ハイム・ブルーム(Chaim Bloom)と袂を分かつことになったと発表しました。事実上の解任です。
なお、珍しいことですが、会見では噂のあったセオ・エプスタインの就任はないことも明言しています。
「人気クラブは、勝たないといけない」
会見に臨んだのは、President and CEOのポジションであるサム・ケネディー(Sam Kennedy)。
以下は、筆頭オーナー(Principal Owner)であるジョン・W・ヘンリーのコメントとしてサム・ケネディが代読しました。
オーナー:ファーム・システム活性化は評価
While parting ways is not taken lightly, today signals a new direction for our club, Our organization has significant expectations on the field and while Chaim’s efforts in revitalizing our baseball infrastructure have helped set the stage for the future, we will today begin a search for new leadership. Everyone who knows Chaim has a deep appreciation and respect for the kind of person he is. His time with us will always be marked by his professionalism, integrity, and an unwavering respect for our club and its legacy.”
ジョン・W・ヘンリー
「別れとはいつも軽々しいものではなくつらいものですが、今日、我々はクラブにとって新しい方向性を示します。野球のインフラを活性化させたハイムの努力は将来の舞台を整えるのに称賛に値する仕事ぶりでした。しかし、我々の組織はフィールドで大きな期待を背負っています。我々は今日、新たなリーダー探しを始めます。ハイムを知る者は皆、彼がどのような人物であるか深く理解し、そして尊敬しています。彼が私たちと過ごした時間は、彼のプロ意識、誠実さ、クラブに対する揺るぎない敬意、そして業績は私達がともに過ごしてきた時間としてこれからも刻まれることでしょう」
サム・ケネディー自身もワールドシリーズで勝つことがゴールであると言っていましたが、人気クラブは低迷が許されないところが難しいところです。
なお、ハイム稼働期間である2020年から2023年までレッドソックスは地区優勝なし。ポストシーズン進出は2021年のみ。最下位は2度。もしも今季最下位となれば4シーズン中、最下位が3度ということに。
現在の強いレイズを作った張本人
ハイム・ブルームは2019年10月にレッドソックスの編成トップに就任。のちにCBOというタイトルになりました。
それまではレイズのSenior Vice President, Baseball Operations”、ベースボール・オペレーション副社長という地位で、エリック・ニーアンダーよりも上のポジションでした。
要はエリック・ニーアンダーとともに今の強いレイズを築き上げてきた張本人でもあります。
特に育成に関しては選手が確実に育つように評価方法、配属の仕方、コンディショニング方法、メンタルの鍛え方など、これまで指導者の勘と経験を頼りにやってきて、場合によっては指導者との性格の相違で才能が埋もれてしまうこともあったようなことをすべてマニュアル化。これをデファクト・スタンダードに押し上げました。ここが彼のすごいところでした。本当に仕事が出来る人です。
レイズは、ハイムが作った選手育成のノウハウを武器にエリート・ファーム・システムを構築。そして競争力を維持しつつ、同時にプロスポーツ界で最も厳しいサラリー制限のもとでクラブが運営されているという創意工夫の塊のような素晴らしいクラブに。これは業界全体から賞賛されています。もしも、悪い点を上げるとするなら、投手が肩、肘を手術をする傾向がかなり多いというところでしょうか?その謎はまた別の機会に取り組みたいと思います。
そのハイムをレッドソックスは引き抜いたということでした。
DDの後始末から
相当期待されたハイムでしたが、レッドソックス加入後は、レイズ時代とはまた違う問題にも直面。
まずは、前任のツケの後始末からスタート。ハイムは前任のベースボール・オペレーション社長で、現在はフィリーズのPOBO(President of Baseball Operation)を務めるDDこと、デーブ・ドンブロウスキがペンペン草も生えないくらいに大盤振る舞いしてきたツケの後始末からスタートすることに。
わかって入って来たとは思うのですが、これはやる気があって入ってきたハイムのモチベーションをかなり挫いたと思われます。
ドンブロウスキは2016年から2018年までの3年連続の地区優勝、2018年のワールドシリーズチャンプと引き換えにプロスペクトの枯渇、大幅な贅沢税超過を引き起こしました。
プロスペクトの枯渇
クリス・セール獲得と引き換えに、マイケル・コペックとヨアン・モンカダを失ったのはもっとも強烈な喪失でした。彼らの運命も変わりましたね。他にもあります。
贅沢税の超過
贅沢税は、2018年は基準値$197Mに対し、40manのサラリー総額は$239Mで$40M以上超過。2019年も40man総額は$239Mで基準値は$206Mゆえに$33Mオーバー。
支払った税額は、2018年が約$11.9M、2019年は2年連続の超過ゆえレートがさらに上がり、$13.4Mほど。2019年で痛かったのはドラフト。33位が初ピックだったにもかかわらず、この影響で順位が10位下がって43位(2巡目)がファースト・ピックとなりました。
現在、オリオールズがALイーストの首位を走っているのは間違いなくドラフト効果。全体1位のアドレー・ラッチマンが上がってから、今の競争力にレベルアップ。ガナー・ヘンダーソンもそれを後押し。本当にスター・プロスペクトの台頭でクラブはすぐに変わることを証明しています。
ハイムが就任したことで2020年にようやく基準値をクリアー。2020年は$208Mの基準値に対して$198Mに。これで制度上は一旦リセットされました。
ムーキーとボガーツが出て行く
しかし、ハイムは将来のHOFであるムーキー・ベッツを失うことに。ムーキーは自身がFA市場に出たかったという強い意思を持っていたこともあったのですが、当時は贅沢税超過の問題も囲い込みに大きく影響したのは間違いないところです。
そして、今シーズン前には更新を熱望していたザンダー・ボガーツも失うことに。
ファンからも愛されてきた彼らを手放す方向に至ったのはオーナーの意思も十二分にあったとは思います。
なお、パドレスがボガーツと結んだ11年/$280M (2023-33)は、将来大変なことになりそうな予感しかしません。
さらに、ネイサン・イオバルディーも遺留することなく、市場へ。そしてネイトは前半戦はALサイ・ヤング賞を獲ろうか?というほどに活躍したという皮肉も。現在は調子は落ちています。
デバースは確保
ラファエル・デバース(26)と11 年/$331M (2023-33)で契約延長でサインしたことはファンとしてはホッとしたディールでした。デバースまで失いそうな空気がありましたから。
得意なディール
ハイムが得意としたのは、市場で価値の下がった選手、あるいは過小評価されている選手を拾ってきてものにしてきたことです。
2021年にはレイズからノンテンダーFAとなったハンター・レンフローと 1年$3.1M (2021)でサインし、レンフローはこの年、大活躍でした。
同年、エンリケ・ヘルナンデス(29才)と 2年/$14M(2021-2022)でサインしたのも大きな果実をもたらしました。
2022年にはマイケル・ワカと 1年/$7M(2022)でサイン。ワカは11勝をマークしました。
2023年にはクリス・マーティンと2年/$17.5M (2023-24)でサイン。クリス・マーティンは勝ちゲームで起用するセットアッパーとして活躍。
同年はジャスティン・ターナーとの1年/$15M保証というディールも大正解でした。
このあたりはレイズ時代から得意なところでもありました。
おかしなディール
同時におかしなディールや動きがあったのも確か。
2021年に活躍したハンター・レンフローをブルワーズにトレードし、JBJを復帰させたディールが典型ですし、2023年はコーリー・クルーバーのディールも今ひとつわからないところでした。結果論になってしまいますが、ネイトを出してこの結果?というディールでもありました。
そしてボガーツは出す前提だっただろう?という2022年のトレバー・ストーリーとのディール。ここまではトミー・ジョン手術もあり、その対価とはなっていません。
ベッツのトレードで獲得したコナー・ウォンは今季、非常に機能しました。しかしもう1人のジーター・ダウンズはもういません。このトレードはツインズも含めた三角トレードでもあり、ブラスダー・グラテロルが入る予定でしたが、彼の肘にクレームをつけてディールは不成立。しかし、グラテロルは現在もドジャースでブルペンのキーマンとして投げております。
さらにロブ・レフスナイダーとのシーズン途中の延長契約も意味不明です。
山本由伸投手獲得に影響も
なお、レッドソックスはGMロールのブライアン・オハロラン(Brian O’Halloran )をBO(Baseball Operation)の新しい役職に起用。そのオハロランとアシスタントGMのエディ・ロメロ、同じくアシスタントGMのラケル・フェレイラ、同じくアシスタントGMのマイケル・グループマンが当分の間、BOをの運営を仕切ります。
先日、オリックスの山本由伸投手がノーヒットノーランを達成し、ヤンキースも見にきたということで大きな話題となりました。
レッドソックスは早くから山本由伸投手に関心を寄せていて、しっかりとマークしていましたが、今回のトップ交代で獲得に何らかの影響が出るかもしれません。
それにしてもハイムは力を発揮しきれなかったと言っていいかもしれませんね。
お読みいただき、ありがとうございました。
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