9月9日に引退会見を予定
現地2023年8月24日、ワシントン・ナショナルズのスティーブン・ストラスバーグが引退に向け準備していることがワシントン・ポストの取材で判明しました。
これは噂レベルか?と思っていましたが、本当に引退を計画しているようで、ナショナルズがドジャースと対戦する9月9日にナショナルズ・パークで記者会見が予定されているとのこと。この記者会見の日付は現時点ではまだ暫定的で変更となる可能性もあります。
スティーブン・ストラスバーグは、1988年7月20日が誕生日で、35才になったばかり。もう35才になったのか?という驚きの方が強いですが、センセーショナルなデビューを果たした大投手の早すぎる終焉は非常に切ないものがあります。
追記:キャンセルに
現地2023年9月8日、スティーブン・ストラスバーグの引退会見はキャンセルとなりました。
スティーブン・ストラスバーグとは
20歳のとき、スティーブンソン・ストラスバーグはサンディエゴ州立大出身のエースとして、史上最も注目されたプロスペクトの一人でした。
2009年全体1位
1969年創立のモントリオール・エクスポスが2004年で幕を閉じ、ワシントンDCに移転してワシントン・ナショナルズとして生まれたのが2005年のこと。
それ以降、ナショナルズは2010年まで6シーズンで5度最下位に甘んじている状況でした。そんな中、2009年に全体1位で指名したのがスティーブンソン・ストラスバーグでした。
すべてが規格外
ストラスバーグはドラフト・イヤーの秋に早速、アリゾナ・フォール・リーグでプロデビューを果たします。AFLはプロスペクト達の登竜門のようなリーグで、通常はダブルA近辺のレベルに達した選手が参加することが多いのですが、そこでプロ・デビューしたというのはほぼ聞いたことがありません。非常にレアです。
そのAFLでストラスバーグは5試合に登板し、4勝1敗、ERA 4.26をマーク。この時から桁違いのプロスペクトだったことがわかります。
2010年に衝撃のメジャー・デビュー
そんなスティーブンソン・ストラスバーグはPre-2010のトップ・プロスペクト・ランクで2位(MLBパイプライン)にランクイン。現ドジャースのジェイソン・ヘイワードが1位でした。この当時からMAX102mphのファストボールに注目が集まり、加えてカーブ、チェンジアップの質、コマンドともども定評がありました。
迎えた2010シーズン、ストラスバーグはダブルAで開幕を迎え、5試合に登板して3勝1敗、ERA 1.64と圧巻の数字をマーク。5月初旬にはトリプルAに昇格。そのトリプルAでも6試合に先発して4勝1敗、ERA1.08をマーク。なんと2ヶ月で7勝をマークしていたのです!
そして2010年6月10日、パイレーツ戦でメジャー・デビュー!21歳でした。こんなすごい投手がいるのか?!と大きな注目が集まりました。このデビュー戦は全米に放送。チケットはもちろん完売。
そのデビュー戦では、7回を投げて被安打4、失点2、BB 0、14SOの快投!初登板でメジャー初勝利を上げました。
ストラスバーグ1人の登場で、もはやナショナルズは変わったと印象付けるほどのデビュー戦でもありました。
デビュー・イヤーにトミージョン手術
しかし残念なことに、この大フィーバーも束の間、デビューから2ヶ月弱後の8月にトミー・ジョン手術を受けるという衝撃のニュースが飛び込んできたのでした。デビュー・イヤーのストラスバーグは、12試合に先発し、68.0 イニングを投げ、5勝3敗、ERA 2.91、BB 17、SO 92。
なお、上述の通り、ナショナルズはこのシーズンも最下位に終わっています。
2012年、物議をかもしたイニング制限
ナショナルズですが、徐々に戦力も充実。創業時の2005年のドラフトでは全体1位でライアン・ジマーマンを獲得。ストラスバーグを指名した翌年の2010年にはブライス・ハーパーも全体1位で獲得。
ハーパーを指名した翌年の2011年には全体11位でアンソニー・レンドンも獲得。さらには、2015年のトレードではパドレスからトレイ・ターナーを獲得し、その力を発揮していくことになります。
さて、トミージョン手術を受けたスティーブンソン・ストラスバーグは2011年9月に復帰。5試合で24.0イニングを投げ、1勝1敗、ERA 1.50。
そして2012年、トミー・ジョン手術後初のフルシーズンとなったスティーブンソン・ストラスバーグは6月と8月にそれぞれ4連勝を達成するなど、9月7日のマイアミ戦までに28試合に登板し、15勝6敗、ERA 3.16、SO 197をマーク。抜群の成績を残したのでした。
ところが、ナショナルズはストラスバーグの将来を思い、このシーズンにイニング制限をかけます。結局、ストラスバーグは159.1イニングで、絶好調のままロスターを外れることに。これは、物議をかもしました。いくらなんでも数字で断ち切るのはどうかと。その数字もどこまで根拠があるのか?という。これにはストラスバーグ本人もかなりやるせない思いがあったようです。
ナショナルズはこの年、98勝64敗でナ・リーグ東地区を制覇。フランチャイズ移転後初のプレーオフ進出を決めましたが、ストラスバーグは当然、ロースターからも外されたため、NLDSでカージナルスに2勝3敗で敗れ、惜しいところで敗退したのでした。
2019年にWS MVP
前年のイニング制限後、ストラスバーグは調子を落としてしまいます。翌年の2013年は30試合に登板し、183.0 IPを投げたものの、8勝9敗、ERA3.00と低迷。
しかし、2014年から2018年までは故障で離脱しつつも、5シーズンで131試合、795.1 IPを投げ、65勝33敗、ERA 3.24、SO940をマーク。1シーズン平均で26試合、159 IPを投げたことに。
そして2019年、ストラスバーグはフルシーズンで稼働し、33試合、209.0 IPで18勝6敗、ERA 3.32、SO 251をマーク。サイ・ヤング賞の投票では5位に入りました。ナショナルズはこの年、93勝69敗をマークするも、ブレーブスが97勝65敗でその上を行き、残念ながら地区優勝は逃したものの、ワイルドカードでポストシーズンに進出することに。
【NLWC】シャーザー&ストラスバーグのリレー
ブルワーズとの対戦となったワイルドカードはまさに死闘となりました!マックス・シャーザーが先発し、なんとストラスバーグが2番手で登板したのです。ストラスバーグは3イニングを被安打2、無失点、奪三振4で流れを渡さず、ナショナルズが4-3でものにし、NLDSへ進んだのでした。
NLDS
ストラスバーグはドジャースとのNLDSのGm2に先発。6.0イニングを投げ、被安打3、失点1、BB 0、SO 10の素晴らしい投球で、4-2のスコアで勝利。
さらにストラスバーグは決戦となったGm5にも先発。6.0IPで被安打6、失点3、BB 1、SO 7、HR 2とゲームメイク。延長の末、7-3でドジャースを下し、NLCSに進出したのでした。
NLCS
カージナルスとの対戦となったNLCSではGm3に登板。7回を12奪三振の圧巻の投球で、8-1のスコアで勝利。ナショナルズはカージナルスをスウィープしてワールドシリーズに進出。
WS
Gm2で登板したストラスバーグは、6.0 IP、114球、被安打7、失点2、BB 1、SO 7,HR 1と素晴らしい投球を披露。ナショナルズが12-3で下し、2連勝を決めたのでした。
地元ナショナルズ・パークでアストロズに3連敗を喫したナショナルズは、後が無くなったGm6でスティーブンソン・ストラスバーグを起用。ストラスバーグはこのゲームで熱投。9回にもマウンドに立ち、最後は代わりましたが、8.1イニングで被安打5、失点2、BB 2、SO 7、HR 1でアストロズ打線を抑えました。
ティッピングされている!→なら、対策してやろう
ストラスバーグがある意味伝説となったのは、ティッピング対策。初回に痛打されたストラスバーグは、グラブの中で持ちかえるかどうかのピタピタした動きで球種を見破られていました。それがわかったストラスバーグは2回以降、グラブの中でわざとピタピタする動きをして握りかえるように見せかけるフェイクの動きをしたのでした!!
後にアストロズのサイン・スティーリングが明るみに出る前の話しでナショナルズはしっかりと対策を立てたのでした。
そしてGm7で0-2とリードされた終盤に逆転したナショナルズは6-2でワールドシリーズを制覇。MVPはシリーズ2勝0敗、ERA 2.51のスティーブン・ストラスバーグが選ばれたのでした。
7年(2020-26)/5Mで契約
WS MVPとなったストラスバーグはその年のオフに、ナショナルズと7年(2020-26)/$245Mで契約。
ここまではトミー・ジョン手術ほか、細かい怪我がありつつも、MLBでのハッピー・ライフを過ごした期間のお話です。
壮絶な神経痛との戦い
ここからが辛いお話となります。
ストラスバーグはその後、2020シーズンから現地2023年8月25日までわずか31.1イニングの登板にとどまっています。彼が最後にMLBの試合で登板したのは2022年6月9日のマイアミ戦です。このゲームでは4.2イニングで被安打8、失点7、BB 2、HR1と本来の投球とは程遠い内容でした。
2020年8月に2試合登板後に、手根管症候群でシーズン・エンディングへ。
そして2021年に4月から6月にかけ、5試合に登板した後に離脱。胸郭出口症候群の手術を行いました(胸郭出口症候群は下記のクリス・アーチャーの記事をご参照ください)。前年に行った手根管は今にして思えば、本当はこの胸郭出口症候群が原因だったということかもしれません。
ストラスバーグが行った胸郭出口症候群の手術は恐ろしいことに肋骨1本と首の筋肉2本を切除するものでした。
なぜ、そこまでする必要があったのかと言えば、「深刻な神経損傷」があったからです。神経を圧迫しているところを取り除く手術であったということです。ストラスバーグは幼い娘たちを抱き上げたり、右手でドアを開けたりするような、ありふれた動作にも苦労する生活を強いられていました。ずっとしびれが継続している状態。
その後、2022年は復帰を試みては失敗し、6月9日のマイアミ戦でのメジャー登板までに3度のリハビリ登板をこなしたものの、手が完全にしびれ、長く立っていられない状態に。それをどうにかするために、彼は横向きに寝て、胸に手を当てていたことも。
2023シーズンの前に、ストラスバーグは、バージニア州北部の自宅近くで3回にわたってブルペン・セッションを試みました。しかし、状態は一向によくならず、1月下旬にはナショナルズにスプリング・トレーニングには間に合わないと報告。
「もう1試合投げたい!!」
オフサイトでトレーニングに励んでいたストラスバーグはついには4月後半には右半身全体を傷めるまでに悪化させてしまう事態に。それ以降、運動もままならない状態が続いていたと言われています。
ストラスバーグがそこまでリハビリに励んでいたのは、「ただもう1試合投げたい!ナショナルズ・パークのマウンドまで小走りで向かい、固く整備された土を踏みしめる感触を味わいたい」それだけだったと言います。もう、勝つということよりもただ、投手の本能としてもう一度マウンドに立ちたい!それを痛切に願っていたとのことです。
ストラスバーグは4月にクラブのメディカル・スタッフの診察を数回受けた以外は、ナショナルズ・パークを訪れていないようです。ただ、ロッカーはそのまま。まるでストラスバーグの復帰を待っているかのようであるとも言います。
またストラスバーグ本人は何も成せないまま、35M以上を取得している状況に悩んでいたとも。
契約
ストラスバーグの契約は2026年まであと3年残っています。AAVでざっと$35M。情報では事情に詳しい複数の関係者から取得したものとして、ナショナルズはストラスバーグの契約に障害保険をかけていないとのことです。
引退に際して、ストラスバーグとナショナルズの間で契約に関する何らかの合意も取り点けられたと見られています。つまり、プレーしないまま残り3年の満額はないだろうという憶測です。これは選手会の事情とも絡んできますので、公表されないかもしれません。選手会は選手を守ることに主眼を置いていますので、契約は契約という考え方。オーナー側の都合で契約を反故にされるのを防ぐ目的があるからです。ただ、今回の場合は事情が事情ですから柔軟な対応を見せそうです。
最高の投手を目指す
オールスターに3度出場したストラスバーグは、レギュラーシーズン247試合に登板し、113勝62敗、ERA 3.24、1723 SOの成績を残しています。
ポストシーズンでは、55.1イニングに登板し、ERAは1.46。
しかし、上述のように故障も多く、年間30試合以上登板したのは13シーズンで3度のみでもありました。
ただ、キャリア通算のBB%が6.6%であったことからわかるように、パワーとコマンドを併せ持った非常に高いスキルを持った投手でもありました。
「怪我をするたびに、復帰したら最高の投手になれるような気がしていた」とかつて語っていたストラスバーグ。今回は残念ながら、それを達成するのが難しいほど、厳しい状態であったようです。
ひょっとしたら、ナショナルズはストラスバーグの引退登板を考えているかしれません。しかし、それもストラスバーグの状態次第というところでしょう。3バッターミニマムがあるので、どこかのイニングで2アウトからの登板はあり得なくもないですが、相手打者の忖度が必要な状態なら、やはりそれは難しいかもしれません。
お読みいただき、ありがとうございました。
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