安定の左腕とトップ・プロスペクトが前腕部を傷める
現地2023年3月10日、フィリーズ投手陣に大怪我か?というニュースが飛び込んできました。左腕のレンジャー・スアレスとプロスペクトのアンドリュー・ペインターが前腕部を傷めたというのです。
フィリーズの2022年
2022シーズン、強豪ひしめくナ・リーグ東地区でワイルドカード争いに勝ち残り、抜群の采配を揮うロブ・トムソン監督の下、NLWC(ワイルドカード)ではカージナルスをスイープ。最大の難関と言われたブレーブスとのNLDSも3勝1敗で突破。
NLCSではタレント揃いのパドレスをも打ち砕き、ワールドシリーズへの進出を果たしたフィリーズ。
ワールドシリーズでは惜しくもアストロズに2勝4敗で敗れたものの、投打にしっかりとした柱がおり、非常に魅力のあるクラブです。
レンジャー・スアレスが前腕部に違和感
2022年のポスト・シーズンでは好調をキープしたザック・ウィーラー、安定感のあるアーロン・ノラが投手力の強さの下支えとなっていました。その他にも強いブルペンも機能しましたが、ロブ・トムソン監督がゲームを采配していく上でレンジャー・スアレスの存在抜きには、あのフィラデルフィアの熱狂を実現することは不可能でした。
2022ポストシーズンで大きな存在感
レンジャー・スアレスはNLDS Game1で先発し、4回途中を失点1でゲームメイク。頼もしかったのはパドレスとのNLCSでGam3に先発して5.0イニングを被安打2、失点2、自責点1に抑えてフィリーズのシリーズ勝ち越しに貢献。さらにNLCS Game5では、パドレスの反撃を摘むべく9回に登板し、シリーズを封印しました。
ワールドシリーズではGame1の一番厳しい場面の7回途中に登板し、アストロズの反撃を抑え、シリーズ1勝目に貢献。
Game3では先発して、5イニングを無失点に抑えて勝利に貢献。
リリーフに先発に投手陣のキーマンとしてベンチのプランをしっかりと実現させた素晴らしい活躍を披露しました。
WBC(ベネズエラ代表)は回避
そのレンジャー・スアレスは、この春のWBCのベネズエラ代表に名前を連ねていましたが、現地2023年3月10日、前腕部のハリにより、WBCから離脱することを発表。フィリーズのスプリング・トレーニング施設に戻ってきました。
レンジャー・スアレスはベネズエラ代表として現地2023年3月8日のアストロズとのエグジビション・ゲームに登板。2回途中2アウトまで投げて、被安打3、失点1、BB2、SO3で途中降板。この降板の後に左前腕部のハリを訴えたのでした。
スアレスは軽症
「すわ、前腕部!」ということで、周囲に衝撃を与えたレンジャー・スアレスでしたが、WBC回避は大怪我になる前に大事をとって今回はキャンセルするという意味で、彼の場合はハリがあるだけで軽症のようです。
スアレスはMRIでの検査も実施しておらず、これに関してはロブ・トムソン監督も同意済み。数日休めば復帰できる見込みであるとのことでした。
とは言え、一旦はペースを落とし、スローイング・プログラムを作成して様子見をするとのこと。
よって、開幕アウトの可能性も現時点では「あり」ですが、たとえそうなったとしても早期に復帰できる見込みです。
これは不幸中の幸いでありました。レンジャー・スアレスは大丈夫という太鼓判が押されるまではイマしばらく様子見ということです。
期待の若手、アンドリュー・ペインターも前腕部を故障
フィリーズのローテーションですが、2022年オフに先発のザック・エフリンがFAとなり、レイズとサインしてクラブを離脱。
ローテーションが欠けたということでフィリーズは新戦力としてメッツからFAとなった右腕のタイワン・ウォーカーを獲得。4 年/$72M (2023-26)、AAV(Average Annual Value) $18Mでサインしました。これはエフリンの穴をむしろアップデートした形で非常に良い補強となりました。
さらに磨きをかけるべく、フィリーズはザック・ウィーラー、アーロン・ノラ、タイワン・ウォーカー、そして現時点では上述のように仮での形となりますが、左腕のレンジャー・スアレスに続くスポットに、トップ・プロスペクトのアンドリュー・ペインターを起用するプランを立てていましたが、そのアンドリュー・ペインターが前腕部を傷めてしまいました。
近位UCLを挫き、4週間の投球禁止
アンドリュー・ペインターはこのスプリング・トレーニングではNRI(ノンロスター・インバイティー「招待選手」)で、まだメジャー・ロスター(40man)ではありません。
現地2023年3月1日のグレープフルーツ・リーグのツインズ戦に先発。2イニングを投げ、被安打3、失点1、BB 0とデビュー戦としては上々の結果を見せました。ファストボールは99mphを計測。首脳陣を唸らせました。
ところが、登板後に右肘の違和感を訴え、ここに来てようやくMRIの結果が判明。診断の結果は、近位UCL(Ulnar Collateral Ligament 「内側側副靭帯」)の 断裂でした。
トップ・プロスペクトに深刻な事態が発生、これはトミー・ジョン手術だなと思ったのですが、フィリーズは4週間の投球禁止のみで様子を見守ることにしています。
「断裂」診断も「近位UCL」なら手術回避
まず、今回、アンドリュー・ペインターの診断結果に出てきたUCLの「近位」ですが、こういう意味になります。
近位とは、四肢において体幹に近い側のこと。英語ではproximal。反対に体幹から遠い側を遠位 (distal)と言う。腕の場合、肩に近い方が近位ということに。
UCLにおいて近位を傷めるか、遠位を傷めるかでかなりの差があり、今回のアンドリュー・ペインターの診断は近位だったがゆえに、フィリーズは現時点では「手術回避」の方向で考えています。
UCL断裂なのに、どうして近位だと手術回避になるか?というと、2017年のクリーブランド・クリニックの研究では、近位部部分断裂の投手は19人中17人(89.5%)が手術なしで投球を復帰出来たのに対し、遠位部断裂の投手13人中4人(30.8%)しか復帰していないというデータがあるからです。
ちなみに筆者はUCLの近位部分、遠位部分が具体的にどこに当たるのかまではわかっておりません。UCLのMRIで一度ググって見ていただくとわかりますが、ドクターはあの画像でよく断裂を見抜けるものだと感心するばかりです。
アンドリュー・ペインターはまだ19才
さて、アンドリュー・ペインターとは?ですが、彼は2003年4月10日生まれで、現地2023年3月10日時点ではまだ19才。この4月の誕生日で20才になります。
2021年のアマチュア・ドラフトでフィリーズの1巡目指名(全体19位)でプロ入り。フロリダ州の高校卒業時にドラフト・ピックされました。
2021年はルーキー・リーグで4試合に先発し、6.0イニングを投げただけ。ちなみにSOは12。
2022年はクラスAで開幕を迎え、9先発し、38.2イニングを投げて、BB 16、SO 69。クラスA+では、8試合に先発して、36.2イニングを投げ、BB 7、SO 49をマーク。さらに、AAにも昇格。AAでは5試合に先発して、28.1イニングを投げ、BB2、SO 37とかなり精度を上げてきました。3レベルを合わせたERAは2.54、SO9は11.8、BB9は0.6。
当然のことながら、フィリーズ内プロスペクトのNO.1で、2023年1月発表のMLBパイプラインのトップ・プロスペクト100では、NO.6にランクされている投手。
非常に楽しみな投手でもあります。
フィリーズはローテーション候補を準備
レンジャー・スアレスの離脱期間は見えない状況で、ひょっとしたらそう遠くない時期に復帰する可能性があります。
ローテーションのNo.5スポットにはアンドリュー・ペインターが見込まれていましたが、開幕は間に合わず、デビューは遅れます。
よって、フィリーズはNO.5スポットに、26才の左腕で2022シーズンに84イニングを投げた左腕のベイリー・ファルターを考えています。もしも、レンジャー・スアレスも長期離脱となれば、26才の左腕のクリストファー・サンチェス(2022年は40イニングでERA 5.63)、26才の右腕のマイケル・プラスマイヤー(2022年は7.1イニング)、21才の右腕のミック・アベル(2020年1巡目)、23才の右腕のグリフ・マクガリーらを競わせてその穴を埋める予定です。
レンジャー・スアレスもアンドリュー・ペインターも現状の診断から悪くなることなく、しっかりと治して復帰してもらいたいですね。
お読みいただき、ありがとうございました。
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