エンゼルス、オーナー変更へ
現地2022年8月23日、エンゼルスに関する大きなニュースが出ました。
オーナーのアルテ・モレノは、エンゼルスの売却を決断した模様。もう少し正確に記載するなら、「クラブの売却の可能性を含む戦略的選択肢を評価するための正式なプロセスを開始」したということのようです。
MLBではオーナーが変わることはよくあることであり、つい最近ではメッツ、ロイヤルズがそうですし、少し前になりますが、ドジャースも変わりました。
現時点では売却先が決まっていませんので上記のような表現になっていますが、売却に向けて動く準備も整っているようです。
売却先を見つける体制も構築済み
オーナーのアルテ・モレノと彼のグループは、この売却のプロセスにおいてガラチオト・スポーツ・パートナーズ(Galatioto Sports Partners)をフィナンシャル・アドバイザーに起用。ちなみに、GSPの社長サル・ガラチオトとマネージング・ダイレクターのブラッド・カッチャーは、2003年にウォルト・ディズニーがアルテ・モレノにエンゼルスを売却した際に代理人を務めたグループのメンバーでした。要は買った時に動いてくれた人達に今回の売却先探しも手伝ってもらうということです。
オーナー「苦渋の決断」とのこと
オーナーの考えを一部掲載しておきます。
It has been a great honor and privilege to own the Angels for 20 seasons. As an Organization, we have worked to provide our fans an affordable and family-friendly ballpark experience while fielding competitive lineups which includes some of the game’s all-time greatest players.
Although this difficult decision was entirely our choice and deserved a great deal of thoughtful consideration, my family and I have ultimately come to the conclusion that now is the time. Throughout this process, we will continue to run the franchise in the best interest of our fans, employees, players, and business partners
「20シーズンにわたりエンゼルスを所有することは、大変な名誉であり特権であった。エンゼルス球団として、史上最高の選手たちを含む競争力のあるラインナップを揃えつつ、手頃で家族向けの球場体験をファンに提供することに取り組んできました。
この難しい決断(売却のこと)は完全に我々の選択であり、熟考に値するものでしたが、私と家族は最終的に今がその時であるという結論に達しました。 このプロセスを通じて、私たちはファン、従業員、選手、ビジネスパートナーのために最善の方法でフランチャイズを運営し続けます。」
オーナーのモレノ氏とは?
オーナーのアルテ・モレノ氏は1946年8月14日生まれの76才(現地2022年8月24日時点)。アリゾナ州生まれで両親の代にメキシコから移住。父は印刷業を営んでいた背景があってか、学校を卒業後に広告会社に勤務。高校卒業後に軍隊に従事し、ベトナム戦争にも参戦。軍隊を出た後、アリゾナ大に入学し、マーケティングの学位を修めています。
どうやってお金を作ったか?
そのアルテ・モレノ氏は広告会社に従事した後、看板会社(サイン・ボード)のアウトドア・システムズに入社。ここでかなりの実績を収めたのでしょう。モレノ氏は同社の社長兼CEOに就任。その過程でオーナーから会社を買収しようと試みたこともあったようですが、パートナーシップを結び、上記の地位に。
そして、1996年に同社の上場に成功。ここで同社の株価は急騰し、1998年にインフィニティ・ブロードキャスティングに80億ドルで売却しました(現在のアウトドア・システムズの会社HP)。
これがクラブを得る種になったわけです。未上場の会社に入ってトップになり、当然自社株もたくさん得ていたのでしょう。そしてIPO(Initial Public Offering:新規株式公開)でガッツリ稼いで、価値の高い時に会社を売却。
やはり1代でクラブを持つくらいの資産を得るにはそのようなプロセスになりますね。そして、一人では使い切れないほどの資産を得たのでクラブを取得。日本でも宇宙旅行に行ってもへっちゃらなくらいに資産を作った方がいますが、そんなことでもしない限りお金が減らないようです。
そしてモレノ氏はIPO前にすでにマイナーリーグの球団経営を経験。Dバックスが創設される時にオーナーシップにチャレンジしたようですが、それは叶いませんでした。
しかし、2003年にウォルト・ディズニーがエンゼルスを売却することを決定。これに参戦し、見事に$180Mでエンゼルスを買収したのでした(2003年10月)。
買収当初は人気者
エンゼルスは2002年にワールドシリーズ制覇を達成。モレノの買収はその1年後のオフシーズンの出来事で、運営当初は球場のビールの価格を下げたり、ヴラディミール・ゲレロ(父)やバートロ・コロンらの高額FA選手を獲得したりして、人気のあるオーナーでした。陽気なメキシカンという風貌も受けたと思います。
そして2004年から2009年までの6シーズンにエンゼルスは躍進。5度もポストシーズンに出場しました。この頃は強かったですからね。ただ、2004年、2007年、2008年はALDSに進出するも、そこで敗退。しかも2004年、2007年はスイープでの敗退でした。ALDSでは2008年に1勝を上げたのみ。
2005年と2009年にはALCSまで進出したものの、ワールドシリーズへの出場はなりませんでした。
エンゼルスが最後にポストシーズンに進出したのは2014年。この年はレギュラーシーズンで98勝をマークし、地区優勝を果たしました。しかし、またしてもALDSで敗退。しかもスイープです。対戦相手はロイヤルズでしたので致し方なかったですね。
それ以降は、2015年に85勝をマークし、地区3位になったのが最高成績。
2017年以降は勝率.500を超えたことがありません。今年はチャンスでもあったのですが、またしても故障者に悩まされました。
当初は編成も素晴らしかった
モレノがクラブ・オーナーになってからのエンゼルスは、ビル・ストーンマンがGMを務め、マイク・ソーシアが現場で長年指揮を執り、現場とフロントが安定。さらに良かったのはファームの育成が整っていて、エリック・アイバー、ハウィー・ケンドリック、ジャレッド・ウィーバーなど、後の一線級を開花させました。
GM製造機
しかし、モレノの悪い面も出ていて、エンゼルスは上記のストーンマンがGMを退任してからの15年間で、4人もGMが代わっています。トニー・レーギンズ、ジェリー・ディポト、ビリー・エプラー、そして現在はペリー・ミネイジアン。ディポトは現マリナーズのGM、エプラーはメッツで頑張っています。
監督人事もそうで、2019年にブラッド・オースマスが就任し、その1年後にジョー・マッドンに代わりました。そのマッドンも2022年6月上旬に13連敗で解雇されました。誰が見ても故障者が原因なのに監督を変えて成功したフィリーズを手本にしたのでしょうか?
GMがやったことのように見せて、実はオーナーの意向であったことは事実からもわかりますね。
同時にモレノは贅沢税のしきい値超えを嫌ったことも、エンゼルスの編成を難しくさせた要因です。
大型契約が裏目
そしてオーナーの意向という点では大型契約もあります。
ジョシュ・ハミルトンと5年/$125M(2013-2017)で契約し、2013年は144安打、21HRを放ったものの、2015年にレンジャーズへ譲渡。後半3年のサラリーの大半も払うことに。
今、700号までカウントダウンとなっていて話題のアルバート・プホルズとの10年/$240M(2012-2021)の契約も大盤振る舞い過ぎるという指摘が当初からありましたが、その通りの結果に。STLでの10年とLAAでの10年ではプホルズの年齢的な要素もあり、格段に違いました。最終的に2021年にDFAに。特にこの大型契約は編成を難しくさせた要素の1つと言っていいかもしれません。
STL (2001-2011) | LAA (2011-2021) |
2001: ROY/SS/MVP-4 2002: MVP-2 2003: ASG/MVP-2/SS 2004: ASG/MVP-3/SS 2005: ASG/ MVP-1 2006: ASG/MVP-2/GG 2007: ASG/MVP-9 2008: ASG/MVP-1/SS 2009:ASG/MVP-1/SS 2010: ASG/MVP-2/SS/GG 2011: MVP-5 | 2012: MVP-17 2014: MVP-17 2015: ASG |
さらに現役では、マイク・トラウトとの12年/$426.5M(2019-2030)、アンソニー・レンドンとの7年/$245M(2020-26)もかなり厄介な問題です。
この2人だけで贅沢税上のサラリーは$70Mを超えます。しかし、この2人がフルで機能したのは、2022年の4月から6月の3ヶ月のみ(現地2022年8月24日時点)。確かに連敗前のエンゼルスは強かったです。
ところがサラリーの大半を占める2人がゲームから離脱した時、どうであったか?は悲惨以外の何ものでもありませんでした。野球は少数で出来ませんので、肝心要の人が倒れると試合に大きな影響が出るのは明白です。大谷選手に大きなしわ寄せが行きました。
偏った編成のせいで、投手に資金を投入できず、粗いゲームを重ねています。
欲しい選手にはGMに至上命令を出して獲得させたと思われるのが、上記の大型契約です。ハロー効果に左右されていたのがオーナー。命令が出ているから、何がなんでも獲得するように動き、結果、せり上がったレートの高値で落してきたのがGMというのが実情でしょう。
一般社会にも、会社のオーナー社長というのがいますが、フロントオフィス内がどうであったかはそれから想像できるのではないかと思います。
ここ数年のエンゼルス
ここ数年、モレノとエンゼルスは、様々なフィールド外の問題にも対応。
スキャッグスの薬物過剰摂取問題
2019年7月にタイラー・スキャッグスが遠征先で急死した問題が発生しました。エンゼルスのコミュニケーション・ディレクターであったエリック・ケイは、後に薬物の過剰摂取に関連して有罪判決を受けています。
粘着物質
また、投球の際の粘着物質に関しては、エンゼルス内にその「大家」とも呼べるほど高品質の物質を作っていた人物がいたことも判明。クラブハウス係のブライアン・ハーキンズはロジンと松ヤニのブレンドを作り、選手に配っておりました。その人物を解雇し、エンゼルスは所属投手による違法物質使用を取り締まるMLBの中心的存在にもなっていました。なお、ハーキンズ氏は、エンゼルスとMLBに対して名誉毀損で訴訟を起こす一方、このような物質の配布は昔から認められている行為であるとも述べています。
スタジアムの契約
スタジアムの方ですが、色々と移転案などもありましたが、モレノの経営グループはエンゼル・スタジアムと球場周辺の150エーカーの土地全体を購入するという長年の構想がありました。この地域を、新しい野球場や他のスポーツの会場の周辺によく見られる一体化した「ボールパーク」的な開発に加えて多目的住宅と商業施設としても開発する計画を立てていました。
モレノと市は暫定合意まで果たしていましたが、ハリー・シドゥ前アナハイム市長は辞職しました。この構想に汚職、州法違反、インサイダー情報の疑いがかけられ、FBIの捜査の手が入ったからです。市議会はこのスキャンダルを受け、モレノ・グループの上記の構想の契約を全面的に覆すことを決議しています。
なお、これはあくまで新構想にNOがつきつけられただけで、アナハイムはエンゼルスに出て行けと言っているわけではありません。
今回、モレノがエンゼルスから手を引く決断に至ったのもこの構想が潰れたからというのもあるかもしれません。
なお、エンゼルスと市のスタジアムのリース契約は2029年までで、2038年まで延ばせるオプションも持っています。エンゼルス・スタジアムはメジャーで4番目に古い球場です。
他の地域の候補
メジャーリーグにはまた拡張案というのがあって、ポートランド、ナッシュビル、ラスベガスに新しいクラブを作る動きがあります。
現フィリーズのベースボール・オペレーション社長のデーブ・ドンブロウスキはフィリーズから声が掛かる前はナッシュビルでの球団創設の動きに携わっていたほど。
そのような案があるとは言え、受け入れ先のスタジアムもまだ出来ていないことから、少なくともエンゼルスは短期的にはどこにも行かないでしょう。ただ、新オーナー次第でアナハイムを離れるかもしれません。
逆に、新オーナーは、アナハイムで新エンゼルスをスタートさせるかもしれません。その場合、もう一度球場の再開発についての協議をスタートさせるかもしれませんね。
新オーナー次第です。
ナショナルズも売却
メジャーリーグは現時点で2つのフランチャイズが売りに出されることになりました。1つはエンゼルス、そしてもう1つが前から噂のあったナショナルズです。ラーナー一族が売却を考えています。
今回、エンゼルスが 売却されることで、ナショナルズの入札者がエンゼルスの買収を検討する可能性もあり、どちらの球団も少なくとも$2.5B以上で売却されるのではないかと見られています。 エンゼルスはロサンゼルス市内に近いため、より高値がつく可能性がありますが、アナハイムに本拠地を置くかどうかは先述の通り、未知数です。
大谷選手の動向
大谷選手のFAは2023シーズン終了後。本当に微妙なタイミングになりました。
もう出た方が良いとは思いますが、大谷選手自身がどう考えているのか?にも依りそうです。勝ちたいのなら、出た方が良いと思いますが、新しい受け入れ先とどこまで考えが合うのか?いずれにせよ、大谷選手が納得行く形にしてもらいたいと思います。
クラブの買い手は大谷選手もセットでと言いかねませんが、現実問題としてトラウトとレンドンと大谷選手で計$100M以上になるのは必至なので、それで運営できるのか?という問題があります。
難しいでしょうね。仮にトラウトか、レンドンのどちらのトレードが決まったとして、ジョシュ・ハミルトンの時のようにおそらくサラリーの大半をエンゼルスが負担することになるでしょう。それも馬鹿らしい話ですが、折半するならそのパターンしかないでしょう。そうやって大谷選手を受け入れる体制を作るのかどうか。
ひょっとしたら二刀流の間ということで超短期で高単価の契約を提示するクラブもあるかもしれませんが、どんなご無体な起用をされるかわからないので、やはりある程度の長さは定めておく方が良いのではと思います。
このトレードデッドラインではあまりに設定が難しすぎて大谷選手のトレードは無くなりましたが、このオフはあり得ます。ただ、その場合、エンゼルスは相当な交換相手を要求します。そのバランスが合うクラブがあるのかどうか。
売却スケジュール
エンゼルスの売却のスケジュールは現時点ではまったくわかりません。理想は年内に決まって、スプリング・トレーニング前にオーナー会議で承認が下り、2023年からスタート!ということなのでしょうが、買い手が見つかるかどうかでしょう。
お読みいただき、ありがとうございました。
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