選手会、MLBの”FINAL”提案を拒絶
現地2022年7月25日のこととなりますが、MLBPA(選手会)はMLBが提案してきた「ファイナル」のインターナショナル・ドラフト案を拒絶しました。これにより、クオリファイング・オファーが今後も継続することが決まりました。
これにより、2022-2026年の新CBAに関する団体交渉が事実上終了しました。
新CBAのサイン後も積み残してきた課題
主に中米を中心とした国際的なアマチュア選手の獲得制度は、何年も前からMLB(以下リーグ)とMLBPA(選手会、以下、組合)の間で交渉のテーマになっていて、この春のCBAの団体交渉では、リーグがインターナショナル・ドラフトの構築を希望し、組合が反対していました。
162試合のレギュラー・シーズン実現に向けて残り時間わずかとなった両者はCBAの残りを批准し、ロックアウトを終了させる一方で、インターナショナル・ドラフトの議論を一時的に中断することに合意。そしてインターナショナル・ドラフト構想についてさらに交渉できる期間を設けることに合意していたのです。その期限の設定が、2022年7月25日でした。
あの状況ではあまりにもヘビーなトピックでした。
QO(クオリファイング・オファー)との兼ね合い
リーグ側のインターナショナル・ドラフトの導入を認める代わりに、組合側はクオリファイング・オファー制度の廃止を求めていたため、この2つの問題は連動していました。
今回、組合側がインターナショナル・ドラフトを拒否したので、クオリファイング・オファーの継続が決定。これにより、クラブの幹部は、オフシーズンのFAに対するドラフト指名補償制度が現状どおりであることを理解した上で、トレード・デッドライン期間に手続きを進めることができます。
つまりは従来どおりということに。
MLBがインターナショナル・ドラフトを設けたい理由
ここでどうしてインターナショナル・ドラフトなのか?ということですが、これは一言で言えば、早期契約の解消と中南米選手市場の透明性向上が目的ということになります。現状の課題の解消を解消する策。
もう少し噛み砕いて言えば、たとえばクラブ側と選手側の双方で、不適切な契約金の交渉があったり、あるいは有資格前の交渉(青田買い)、または選手の価値を高めるためにわざわざPEDs (パフォーマンス向上剤)を渡すような極悪エージェントなどもいます。当然、そのエージェントは多額な契約金のマージンも取りますし、もはや奴●市場さながらの非常にダークな面があるのです。リーグ側はそれをクリーンにする制度としてインターナショナル・ドラフトを導入したいと思っていたのです。
仮にインターナショナル・ドラフトが制定されていれば、先日行われたアマチュア・ドラフトと並行して2本のドラフトが行われるということかと思います。
組合が拒否した理由
こう見ると、リーグ側の提案はとても真っ当に見えるのですが、組合側が拒否したのは不十分な点がある、制度不備ゆえに拒絶。導入の見送りということに。
組合側は選手契約、ロスター枠、インフラ投資、プレー機会、最低保証の確立、さらには汚職に対抗するための強制措置の確立を目指し、国際契約選手への補償を他のアマチュア選手と同等に公平にし、すべての有望選手に教育や選手育成のセーフティネットへのアクセスを確保するための提案を行ったということのようです。
MLBの提案
MLBの提案では、2024年に20ラウンド、600人指名の規模で開催。保証されるボーナス・スロット(契約金の枠)の価値は総額$191M。1位枠が$6M、2位枠は$5.4M。これれらのスロットはいずれも前回のCBAの期間中に契約したどのアマチュアFAより高いものと言われています。
たとえば、2020年のアメリカ国内選手のアマチュア・ドラフトのボーナス・スロット(契約金)はこのようなものです。1位が$8.4M、2位が7.78M。下記の記事をご参照ください。
実際、中米の選手は16才から18才でサインすることが多いので、国内の大学卒でより即戦力に近い選手とはその点で金額的に差が出てしまいます。
このスロットに関して、組合側が要求した総額は$260M。さらに、インターナショナル・ドラフトにかからなかった選手を指名するアンドラフトのスロットはリーグが$20Kなのに対し、組合は$40Kとこちらでも開きがありました。
ちなみに、今回、インターナショナル・ドラフトが拒否されたことで、現行のインターナショナル・サイン・システムの$167Mはそのまま維持されることになりました。
インターナショナル・ドラフト未成立の影響
インターナショナル・ドラフト未成立=QO(クオリファイング・オファー)の維持ということになりましたので、その影響を見てみます。
【1】QO
クオリファイング・オファーは、FAを失った代償としてドラフト指名権を受け取りたいクラブは、FAが始まる前に、MLBのサラリートップ125人の平均で1年間のオファーを提示することができます。
そのプレーヤーは過去一度もQOを受けたことがなく、直近のシーズンでそのクラブにいたことが条件とされています。
QOを拒否したFA選手と契約したクラブは、ドラフト指名権とインターナショナルプール枠をそろって没収されます。さらに、ペイロールがCB TAX(贅沢税)の基準額を超えているクラブが、QOを拒否したFA選手と契約する際、他のクラブよりも厳しい罰則に直面します(1番目の指名から10個下がる)。
QOの継続により、年間サラリーがQOの額と同額程度が見込まれる選手ほど、移籍先に苦労している実績があります。マイク・ムスターカスなどはそうでした。拒否したものの、結果、QOを受けていたほうがサラリーは高かったということに。これは今後も起こりうるので、選手は要注意ですね。
しかし、たとえば、FA当時のハーパーや、今季のフリーマンなどは別格です。影響は受けません。QOより断然サラリーが高くなるのがわかっていたからです。
ドラフト補償目当てで、QO拒絶がわかっているFA選手にQOを出すというケースもまた起こりそうです。
【2】PPIも廃止
組合のインターナショナル・ドラフト拒絶により、プロスペクト・プロモーション・インセンティブ(PPI)プログラムのインターナショナル・ドラフト指名権も廃止されました。
インターナショナル・ドラフトが実施されていれば、開幕日にアクティブロスターに登録されたプロスペクトがROY投票で2位、3位、MVPやサイ・ヤング投票で4位、5位になった場合、クラブはインターナショナル・ドラフトで追加指名を受ける可能性がありました。
インターナショナル・ドラフトがなくなったので、国内ドラフトでは、昇格したプロスペクトがROYを獲得した、またはサイ・ヤング賞やMVPの投票で上位3位に入ったとしても、追加指名は1つだけということに。
つまり、トップ・プロスペクトを開幕ロースター入りさせるインセンティブが減少しました。2022年には、シアトルのフリオ・ロドリゲスを含む10人のトップ100プロスペクトが開幕ロースターに昇格し、1995年以来最多となっていましたが、それはインターナショナル・ドラフトが導入されれば、追加指名が増えるというメリットがあったため。MLS操作の抑止策の一つでもありましたが。
【3】TDLへの影響
これは個別のケースによると思いますが、ドラフト補償が今後もついてくるということで、トレードデッドラインではむしろキープし、オフシーズンにQOを出してドラフト補償を得ようという動きも中にはあるかもしれません。
今年のTDLは売りと買いがどうなるのか、ちょっと見えにくいですね。
以上、今回のインターナショナル・ドラフトが出た背景、QOと絡む理由、FA市場への影響について概略を記載しました。抜けなどもあると思いますが、ご参照程度に。
お読みいただき、ありがとうございました。
ングシステムを確立するための提案を拒否した。
よって打ち消されてしまうだろうと反論している。
また、リーグは、現在のシステムが、選手が16歳の誕生日を迎える前に、チームと選手が口頭で契約に合意する動機付けになっていることに懸念を表明している。しかし、組合は、口約束の取り締まりを強化すれば、ドラフトを行わなくても同じ目的を達成できるとの考えを示している。
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