ワールドシリーズ2019 Game 7
現地2019年10月30日、1ヶ月にわたって行われたMLBのポストシーズンがついに終焉を迎えました。ワールドシリーズ2019、ナショナルズ@アストロズのGame7は見どころたっぷりのゲームとなり、前半ザック・グレインキに抑えられていたナショナルズ打線が終盤に火を噴き、6−2で逆転勝利をおさめるという劇的な結末となりました。
プレ・ゲーム
スターティング・ラインナップ
打率はGame6までのワールドシリーズのみの累積です。投手のERAも今ワールドシリーズのERAです。
Nationals | Astros |
1.ターナー-SS-.185 2.イートン-RF-.333★ 3. レンドン-3B-.292 4.ソト-LF-.304★ 5. ケンドリック-DH-.227 6. A・カブレラ-2B-.278(S) 7. ジマーマン-1B-.190 8. ゴームズ-C-.250 9.ロブレス-CF-.143 P.シャーザー ERA 3.60 | 1. スプリンガー-CF-.348 2. アルトゥーベ-2B-.321 3. ブラントリー-LF-★-.333 4. ブレグマン-3B-.231 5. グリエル-1B-.280 6.アルバレス-DH-★-.429 7.コレア-SS-.174 8. チリノス-C-.267 9. レディック-RF-.167★ P. グレインキ ERA 1.93 |
ナショナルズはロブレスとゴームズの打順を入れ替え。一方のアストロズは打順変わらずで、捕手もチリノスに任せました。
シャーザーの相棒、スズキは欠場
マックス・シャーザーの相棒、カート・スズキはやはりお尻の屈筋の調子がよくなく欠場となりました。ベンチには入りました。シャーザーはスズキの時の方がERAが良く、ヤン・ゴームズの時は倍ほど悪いというデータもあるのでちょっと気になるところでした。
【2019 シャーザーの相棒別ERA】
Catcher | ERA |
スズキ | 2.08 |
ゴームズ | 4.09 |
シャーザーの状態
Game5の先発を首のけいれんと僧帽筋痛で緊急回避したマックス・シャーザーでしたが、Game6の最中にブルペンで投球練習も行っていました。どこまで回復するか微妙なところではありましたが、本人は行く気満々。誰も止められないオーラをまとっていたのでした。とは言え、肉体がどこまでもつのかという不安は拭いきれず、シャーザーの出来が勝敗を左右する大きな要素であったことは間違いありません。
(サマリー) WSH 6, HOU 2
シャーザー、グレインキはまったく正反対のゲームイン。初回から全力で向かうシャーザーに対し、ザックは丁寧にボールを置いていくスタイル。この2人のことは後述します。
2回裏、ユリ・グリエルが先制のHR
立ち上がりから球数が多くなったマックス・シャーザー。2回裏に捉まってしまいます。
先頭のユリ・グリエルに2ボールナッシングとボール先行となった後、ストライクを1つ取ったまではよかったのですが、2ストライク目を取りに行ったスライダーが甘めに入り、それをグリエルにうまくさばかれました。打球はライナーでLFスタンドに入るHRに。アストロズが1点を先制します。
シャーザーはその後もアルバレスとコレアに連続ヒットを許し、大量失点となりそうな雰囲気もありましたが、ここから真骨頂を発揮。チリノスには球威で圧してバントミスを誘い、レディックも1Bゴロに仕留め2アウト。この間、ランナーに進塁を許し、2アウト2・3塁。
ソトがナイスキャッチで大量点を防ぐ
つづくバッターは当たっているジョージ・スプリンガー。シャーザーはさすがに慎重にならざるを得ず、3ボール・ナッシングで満塁もちらつく状況に。4球目、力を込めた97.3mphの4シームをスプリンガーがLFへ鋭いヒット性の当たりを放ちます。これでさらに2点が入ったと思った瞬間、LFのフアン・ソトが正面に飛んできてなおかつラインドライブで左に切れてくる難しい当たりのライナーをうまく体勢を崩してキャッチ。ソトのこの好捕により、シャーザーはこの回を1点で凌ぎました。このソトのプレーは大きかったと思います。
その後もアストロズはランナーを出すもあと1本が出ず、1−0で推移します。
5回裏、コレアが2点目のタイムリー
完全にザックのペースとなったこのゲームですが、アストロズに流れが行きます。5回裏、先頭のマイケル・ブラントリーがRFへのシングルで出塁。つづくブレグマン、グリエルは凡退し2アウトとなりましたが、ヨルダン・アルバレスが四球で出塁し、2アウトながら1・2塁のチャンスに。
ここでバッターはカルロス・コレア。コレアは2ストライクと追い込まれながらも2−2の並行カウントまで粘り、5球目。スライダーをジャストミート。3Bライン際への強い当たりにアンソニー・レンドンも反応しますが、わずかにグラブが届かず、長打コースに。ところが球場の構造で打球が3B後方のフェンスに跳ね返り、SSのターナーが処理し、2塁ランナーはホームインしたものの、1塁ランナーは還えることが出来ず。アルバレスは3塁、打ったコレアは2塁に進塁。アストロズが1点を追加し、2−0とリードを広げます。
7回表、ナッツがレンドンとケンドリックのHRで逆転
ザック・グレインキの丁寧な投球に苦戦し、6回を終了してヒット1本、四球1つだけの出塁にとどめられていたナショナルズは7回に反撃。
1アウト後、アンソニー・レンドンが甘いチェンジアップを叩き、これがLFスタンドに入るソロHRに。ナショナルズが1点を返します。
そしてフアン・ソトに四球を出したところで好投していたザック・グレインキは降板。2ヒッターという素晴らしい投球を見せてくれました。
ここが踏ん張りどころと直感したアストロズのヒンチ監督はブルペンのエース、ウィル・ハリスを投入。シーズンERAが1.50のハリスもGame6の7回にレンドンに2ランHRを浴びていたという心配もありましたが、ここは一番いい投手を送り込んできました。
バッター、ハウィー・ケンドリックの2球目。アウトコース低めのカットボールは決してコントロールに間違いはなかったと思うのですが、これをケンドリックがRFポール直撃の2ランHRにし、ナショナルズが一気に3−2と逆転に成功したのでした。
8回表、レンドンがタイムリーシングル
押せ押せとなったナショナルズは8回表、前のイニングからスイッチしていたロベルト・オスーナにプレッシャーを与え、アダム・イートンが四球で出塁。そしてアンソニー・レンドンの2球目にスチールを敢行してこれが成功。スコアリング・ポジションにランナーを進めます。レンドンはCFフライに倒れて2アウトになりますが、つづくフアン・ソトは2球目のインコース・ベルト付近の4シームを強振し、これがRFへのタイムリーシングルに。2塁からイートンが還って、4−2と2点のリードをつけます。
9回表、イートンがタイムリー
もう勢いの出てしまったナショナルズは9回表にもダメ押し点を入れます。このイニングから代わったジョー・スミスからジマーマンがシングルで出塁。1アウト後ロブレスがシングル、さらにターナーが四球を選び満塁のチャンスを作ります。アストロズはここでGame4の先発で好投したホセ・ウルキディーにスイッチ。しかし、ウルキディーもナショナルズの勢いを止められず、アダム・イートンに4シームをCFに弾き返され、ここで2点が入り、6−2に。これでアストロズの戦意が完全に消失しました。
9回裏、ダニエル・ハドソンがマウンドに上がり、スプリンガー、アルトゥーベ、ブラントリーを三者凡退に仕留め、ゲームセット。6-2で勝利し、見事にワールドシリーズチャンプに輝いたのでした!
ゲームのポイント
対照的だったシャーザーとザック
このゲームのそもそもの見どころの1つは2人のサイヤンガー同士の先発。しかもWSチャンプのかかったゲームでの顔合わせというのがしびれるところでありました。
“HOT”で鬼の形相だったシャーザー
満身創痍でマウンドに上がったことや、自身初のワールドシリーズタイトルがかかっていたこともあり、マックス・シャーザーはこの日は終始鬼の形相。しかし、やはり体調は万全ではなく、初回に98mphほど出ていた4シームも5イニング目には94mphほどにとどまっていました。また初回の98mphもシュート回転するケースが見られ、いつもの糸を引くような軌道が薄いペイントになっていたのでした。
そして毎回ランナーを背負う苦しいピッチングは5回を投げ終え103球という球数の多さにも現れていました。
それでも2失点に抑えたシャーザーはやはり気力、体力、技術すべてが次元を超えた存在かと思います。シャーザーは5回を被安打7、失点2、与四球4、奪三振3、被本塁打1。命をかけたような投球には胸を打たれました。
”COOL”なザック
力と気力で圧すシャーザーに対してとても対照的だったザック・グレインキ。いつものことですが、この日はとりわけ充実していたように思えました。
7回1アウトで降板。球数はなんと80球。67mphほどの超スローカーブにコントロールミスはなく、それがチェンジアップ的な役割も果たしいてナショナルズ打線を狂わせていました。また、ファストボールに的を絞ると、同じ88mphほどの球速で2シーム気味に落ちてくるチェンジアップにひっかかる。さらにカットボール、スライダーもあり、まったく芸術的な投球でした。
さらに、フィールディングの華麗さは脳内にある投手の守備のイメージを最高級に更新してくれたと思うほど。さすがにGG賞を5度も受賞した守備だと思いました。
ザックは頭の中でクラシックでもかかっているのかと思われるほど、全てが洗練されたプレーでした。
パトリック・コービンが好リリーフ
5回で100球を超え、無念の降板となったシャーザーからリレーされたのはローテーションのパトリック・コービン。3イニングを被安打2、無失点、奪三振3という素晴らしい内容でした。
炎上後は好リリーフがつづく
パトリック・コービンはNLDS Game3でリリーフのマウンドに上がり、6失点と大炎上してしまいましたが、その後、NLDS Game5、NLCS Game2、WS Game1、WS Game7と4回のリリーフでは四球0、失点0と完璧な内容を誇りました。大きかったですね。
積極性を感じたナッツ打線
この日、ザックに対するナッツは非常に積極的でした。結果、早打ちに終わり、ザックの投球数減に大いに貢献したとは言え、これが後半の打線の爆発につながったと思います。皆、意図を持った早打ちだったと思います。唯一ロブレスだけはそれを感じさせませんでしたが。DCでの3連敗の反省がよく活かされたと思います。
- 1回:ターナー2球(スライダー)、レンドン1球(CHG)
- 2回:ケンドリック2球(CHG)=ダブルプレー
- 3回:ロブレス1球(カッター)
- 4回:イートン2球(4S)
- 6 回:ゴームズ1球(4S)
- 7回:レンドン2球(CHG)=HR
ナショナルズのWSチャンプエピソード
クラブ史上初
ナショナルズは1969年創立のモントリオール・エクスポス時代から含めて51年目で初のワールドシリーズ制覇を成し遂げました。また、D.C.のクラブとしては1924年のワシントン・セネターズ以来、95年ぶりの快挙です。
ホームゲーム勝利0でWSタイトルは初
今回、非常に珍しかったのはホームゲームで0勝でロードゲームで4勝してタイトルを獲ったことです。これはワールドシリーズ史上初。さらに、アメリカ4大スポーツの7ゲームベストのプレーオフでロードのチームが全勝するのも史上初。
タイガース2014ローテーションが全てリングを獲得
今回、マックス・シャーザーがワールドシリーズ・リングをゲットしたわけですが、2014年のタイガースのローテーションはこれで全員がリングをゲットしたことになりました。この時のタイガースのローテーションはどんだけすごかったんだと思いますね。
2013年にローテーションだったダグ・フィスターは2014年にナショナルズでプレーしたことも何かの縁を感じますね。
MVPはストラスバーグ
なお、ワールドシリーズMVPにはシリーズ2勝0敗、ERA 2.51のスティーブン・ストラスバーグが受賞しました。おめでとうございます。
なんと言ってもGame6をつないだわけですから。これがなければチャンプはなかったので、ストラスバーグはシャーザーはじめ、全てのナッツ関係者の人生を変えたと言っていいでしょう。
ナショナルズが魅力的だった5つのこと
とにかく面白かったワールドシリーズ。いい戦いを繰り広げてくれた選手には感謝したいと思います。
何が面白かったということは後日きちんとまとめたいと思いますが、心を揺さぶったポイントは大きく5つほどありました。
1. NLペナント制覇の確率0.1からのWS制覇
5月25日に、ナショナルズの成績は21勝31敗で首位と10.0ゲーム差。この日はチームにとっての底で、ナ・リーグのペナント制覇のもっとも低い確率が出ていた日。その確率は0.1%。そこから這い上がってきた大逆転のこの成果は金字塔です。
2. シーズン中の成長
ハーパーが抜けた心細い状況で、生え抜きのライアン・ジマーマンと2018年から加入したジマーマンより1つ年上のハウィー・ケンドリックがクラブを見えないところからも牽引しました。そのうち、中堅に差し掛かってきたトレイ・ターナーがリーグを代表するリードオフに成長。なんと言っても、21才になったばかりのフアン・ソトが大成長を遂げました。ハーパーという外野の大きな柱が抜けたことでロブレスにチャンスが回ってきたこともチーム力の成長には大きな要素だったと思います。
3. 鼻骨骨折直後もマウンドに上がったシャーザー
ナッツのシーズン中の快進撃の大きな要素はマックス・シャーザーの鼻骨骨折事件があったと思います。バント練習で失敗しボールが顔面に直撃。鼻骨を骨折しながらもマウンドに立った鬼の形相のシャーザーのプロフェッショナルぶりはクラブにいい影響を与えたと思います。
4. PS中の大進化
ローテーションは90年代のブレーブス並みという表現は何度も使ってきましたが、PSに突入した時点でのナッツの評価は先発のコマは素晴らしいのに、ブルペンに大きな不安ありということでした。クローザーのショーン・ドゥーリトルがシーズン後半に疲れが出て調子を落としたこともマイナス要素でした。
ところが、ポストシーズン前半にコービン、シャーザーをブルペンに据えた戦いでリリーバー陣にも火が点いたのか、それ以降のナショナルズ・ブルペンはNLチャンプとなった時点ではすでにもう盤石の体勢になっていました。
これほどの短期間で目に見えて進化していく過程を見るのは非常に興味深かったです。
5. 最も仲の良いクラブが制覇
ベイビー・シャークはもはや現象にまでなりましたが、ナショナルズはセレブレーションがもっとも派手でベテランも若手も関係なく一つの和を形成したクラブでした。
そんな仲の良いメンバーがつないでつないでワールドシリーズまで制覇してしまったことは見る人間の心をグッと掴んだと思います。
素晴らしい戦いぶりだったと思います。ナショナルズ、ワールドシリーズ制覇、おめでとうございます。
お読みいただき、ありがとうございました。
(ワールドシリーズ記事一覧)
1. WSH (シャーザー) @ HOU (コール) 2. WSH (ストラスバーグ) @ HOU (J.V) 3. HOU (グレインキ) @ WSH (アニバル) 4. HOU (ウルキディー) @ WSH (コービン) 5. HOU (コール) @ WSH (ロス) 6.WSH (ストラスバーグ) @ HOU (J.V) 7. WSH (シャーザー) @ HOU (グレインキ) | →WSH 5, HOU4 →WSH 12, HOU 3 →HOU 4, WSH 1 →HOU 8, WSH 1 →HOU 7, WSH 1 →WSH 7, HOU 2 →WSH 6, HOU 2 |
コメント
本当に素晴らしいワールドシリーズでした。
優勝パレードが楽しみです。
ナ・リーグ東地区は来季4強で大混戦になりそうですね。
ケン様
こんにちは。いつもコメントありがとうございます。
パレード、私も楽しみです。
シャーザー、ストラスバーグ、パーラの家族が喜んでいるところを見たいですね。
コメントありがとうございました。