微妙に違う4つの使い分け
まもなくトレードデッドラインですので、契約用語で使われるウェーバーについて記しておきたいと思います。
そもそも”waiver”という言葉の意味は
そもそもwaiveは「(権利などを自発的に)放棄する、断念する」という意味。ここでは「選手との契約期間中に支配権を放棄すること」。カタカナ表記だとウェイバーとする方が正しいでしょうが、「ウェーバー」で浸透していますので、ここではそれを用います。
ウェーバーの管理
選手を出す側が届け出て、探す側がそれを見てという動きがあるのでどこかが管理しているからそれができるのですが、その一元管理を行っているのがコミッショナー・オフィスです。ウェーバーのリクエストはコミッショナー事務局にfile (=登録)され、一定期間保持されます。
早速ですが、ウェーバーには4つのタイプがあります。
4つのタイプのウェーバー
適当な日本語訳がないのでカタカナ表記で御了承願います。
- Unconditional Release Waivers
- (アンコンディショナル・リリース・ウェーバー): “Unconditional”は「無条件の」。
- Irrevocable Outright Waivers
- (イレボカブル・アウトラウト・ウェーバー): ”irrevocable“は「取り消し(変更、解約)不能」という意味。
- ”outright”は英語だと「means sending a player to the minors and removing him from the 40-man roster」。もともとは「明白な」とか「まったく」などの形容詞や副詞の意味しかなかったが、スポーツの分野から動詞的な使い方をするようになってきた。「マイナーに送るか、40manから外すこと」という実態を指す言葉。
- Optional Waivers
- (オプショナル・ウェーバー)
- Trade Assignment Waivers
- (トレード・アサインメント・ウェーバー)
撤回は? | いつ使う? | |
Unconditional Release Waivers | 規定なし。 出したいので 撤回はしない。 | 厄介な選手を リリースしたい時 |
Irrevocable Outright Waivers | 撤回不可 | ・40man外し+マイナー傘下 に置きたいとき ・Out of optionの選手を 25人枠から外す時 ・いわゆるDFA後のウェーバー がこれ |
Optional Waivers | 撤回可能 | マイナーオプションの残あり +暦年3年以上の選手 |
Trade Assignment Waivers(廃止) | 撤回可 | 8/1-シーズン終了まで (2019年から廃止) |
1. Unconditional Release Waivers
アンコンディショナル・リリース・ウェーバーとはクラブが不要な選手をリリースしたいときに経る手続きのこと。これはわかりやすいと思います。
- 所属先がある選手をアンコンディショナル・リリース・ウェーバーとして申請し公示すると、他のどのクラブもその選手を1ドルで獲得できます(申請費用のようなものでサラリーのことではない)。
- 選手は他のクラブから欲しいとクレームされた場合(申し込みを受けること)、5日以内にそのクラブへ行くか、拒否してFAとなるかを決めます。
- もし拒否してFAとなった場合、旧所属先と交わしていた残り期間の契約も放棄することになります。
- もし受け入れた場合、獲得したクラブはそのプレーヤーが元の所属先と交わしていた残りの契約を引き継ぎます。
- もしどこからもクレームされない場合(獲得先が現れない)は、FAとなります。もとの契約も終了です。
通常、アンコンディショナル・リリース・ウェーバーを受けたプレーヤーは、非常に大きな契約にサインしたものの、かなり悪い成績を残したプレーヤーであることが多いため、別のチームが彼らをクレームすることはほぼありません。
よって、プレーヤーは通常はFAになることを選択し、リーグミニマム付近の条件で他のチームと契約します。直近ではレンジャーズがジョシュ・ハミルトンに出したりしました。
2. Irrevocable Outright Waivers
イレボカブル・アウトライト・ウェーバーは単にアウトライト・ウェーバー(Outright Waivers)とも言われます。
クラブがある選手を40manロスターから外して他の選手のために枠を空けつつ、まだ当該選手を支配下としてマイナーリーグに置きたい時に使う手段であり、経なければいけない手続きのこと。
DFA後にかけられるウェーバーはこれです。
選手がこのウェーバーに置かれると他のクラブはクレームすることができる(獲得申し出のこと)。
マイナーオプションが切れた(out of option)選手をアクティブロスター(25人枠)から外してマイナーに落とす時に使われる手段でもあります。
マイナーオプションの残っている選手なら降格も昇格もスムーズにおこなうことができます。これをオプショナル・アサインメントと言います。オプショナル・アサインメントの場合、40manロスターに残ったままです。しかし、上記のようにマイナーオプションが切れた選手をマイナーへ降格させるには、まずこのウェーバーを通過させる必要があります。
どのクラブもウェーバー公示された選手を2万ドルで獲得申し出(claim off)することができます。
このウェーバーはイレボカブル(irrevocable)、つまり取り消し不可(撤回不可)です。
取り消し不可とは、選手をウェーバーに出した後、他のクラブに獲られそうになった時に、引っ込めることが出来ないウェーバーのこと。よって、他のクラブに獲られるリスクがあります。
参考までにrevocable(レボカル)だと撤回可能で、ウェーバーに出した後、他のクラブに選手が獲られそうなったら、引っ込めることができるウェーバー。
クラブはノートレード条項をもつ選手、あるいは10/5(テン・ファイブ)ルールのある選手に対し、このウェーバーを使うことができません。10/5ルールとは、MLB在籍10年以上、同一チーム在籍5年以上の場合はトレードを拒否できるというもの。トレードの拒否権をもつ選手には使えないということ。
2006年までは9月1日から翌シーズン開始後30日までの期間を「スペシャル・ウェーバー」という名前で使う事ができました。オーナーと選手会は2007-2011の協定でこのスペシャル・ウェーバーを廃止しています。
3. Optional Waivers
選手のマイナーオプションに関してはこちらを。
マイナーオプションが残っていればそのシーズン中は自由に昇格、降格させることができます。しかし、メジャーデビューから3年以上(カレンダーイヤー。サービスタイムではない)の選手をマイナーに降格させる際はマイナー拒否権があります。
よって、オプションはまだ有効だけれどカレンダーイヤーで3年以上経過している選手に対して、マイナーに落とす前にやるべきウェーバーがこれです。このウェーバーは撤回可能(引っ込めることができる)です。
4. Trade Assignment Waivers
トレード・アサインメント・ウェーバーは2019年からは使えなくなりましたので、言葉だけはまだ色々と出てくるものですから、概要だけ下記に説明しておきます。
トレード・アサインメント・ウェーバーはRevocable Major League Waivers(レボカブル・メジャーリーグ・ウェーバー)、あるいはTrade Waivers (トレード・ウェーバー)とも言います。
説明は【MLB】2019年のトレードデッドラインが今までとは違う点の記事の中のTrade Assignment Waiversと同じです。
- チームは8月のある時点でDL入りの選手を除いて、他のチームにrevocable waiver (レボカル・ウェーバー:撤回可能な権利放棄)として 大半の選手を公示。レボカブル(撤回可能)とは、ウェーバーに出しても引っ込めること(撤回すること)が可能という意味で、選手を他のクラブに獲られそうになったら引っ込めることができるという意味でリスクがありませんでした。ウェーバーに公示するのは2日間(平日47時間)
- 選手をウェーバーに出すと、他のクラブは獲得の意思を出すことができます。もし複数のクラブが獲得の意思を示した場合、同一リーグのクレームを上げた時点での勝率の悪いクラブを最優先にします。次に違うリーグの勝率の悪いクラブに順位が移行。ア・リーグの選手がウェーバーに上がれば、ア・リーグのクレーム時点での勝率の悪いクラブが最優先で選手を獲得できるということです。
- 一旦、選手がクレームされたら、とるべき選択肢は3つ。
- 選手を引っ込めて(撤回可能なので)、キープする。
- クレームしたクラブと交渉して選手を行かせる。
- クレームしたクラブはその選手の残りのサラリーを引き継ぐ。また費用として2万ドルを支払う。
- もしも2日間の公示でどこからも獲得の意思が示されなかった場合は、その選手はウェーバーを通過したとされ、残りのシーズンはどこのクラブとトレードしても良い。
- ただし、その選手にノートレード条項があったり、10/5(テン・ファイブ)ルールがあればどこでもというわけに行かない。10/5ルールとは、MLB在籍10年以上、同一チーム在籍5年以上はトレードを拒否できるというもの。
- 8月31日をすぎればポストシーズンへの出場資格はなくなる。
- 選手をウェーバーから引っ込められるのはそのウェーバーの期間は1度だけで、2度めに出してクレームされればそのクレームのあったチームに行かせないといけない。
ウェーバーの期間とクレームの優先順位
- 11月11日〜4月30日(もしくはよくシーズン開始後30日目まで):前年の勝率の悪い順から
- 5月1日〜7月31日:今年度の勝率の悪い順から
- 8月1日〜11月10日:今年度の勝率の悪い順から。ALの選手がウェーバーに上がっていれば、ALの勝率の一番悪いクラブが優先。同じくNLの選手がウェーバーに上がっていれば、NLの勝率の一番悪いクラブが優先。
ドラフト時に使うウェーバー制との関連は?
ちなみによくドラフトなどで、戦力均衡の点で前年の勝率の下位チームから指名していくとことをウェーバー制と言いますが、その際に使うウェーバーはここで言うクレームの優先順位の制度のことです。
お読みいただき、ありがとうございました。
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