MLBのルール・チェンジ提案2019
現地2019年2月6日、記者のケン・ローゼンタールさんの情報によりますと、MLB(機構側)がMLBPA(選手会)に2019年の大幅なルール・チェンジを提案したとのことです。
マンフレッド・コミッショナーの時短策
現MLBコミッショナーのロブ・マンフレッドさんはとにかく時短を最優先の課題に置いている人です。
なんとか試合時間を短くという使命をもって現職に就いておられると言っても過言ではありません。
MLB人気をとどめたいマンフレッドさんはそのキーは試合時間の短縮にあるという信念をお持ちです。確かに野球はとんでもなく長い試合時間になることもあります。
直近ではワールドシリーズ2018のGame3ですね。7時間ほどかかりました。
ぶつ切り時間でロスタイムが発生するとは言え、ある程度の終了時間が読めるNFL、NBA、NHL、サッカーのようにならないか?と知恵を絞っておられます。
ただ、ドラスティック過ぎるのも野球自体が変わるかもしれませんね。
そんな「時短」をメインテーマに起きつつ、MLB側としてなんとか野球を面白くしたいという提案が上がっていますので、あらためてご紹介したいと思います。
記者のローゼンタールさんがレポートしたMLBの2019年のルール・チェンジの提案内容がこちらです。
2019ルールチェンジ提案
MLB機構側がMLB選手会側に提案した内容です。
- A three-batter minimum for pitchers
- A universal designated hitter →追記あり
- A single trade deadline before the All-Star break
- A 20-second pitch clock
- The expansion of rosters to 26 men, with a 12-pitcher maximum
- Draft advantages for winning teams and penalties for losing teams
- A study to lower the mound
- A rule that would allow two-sport amateurs to sign major league contracts
順番に見ていきたいと思います。
1. ピッチャーは最低でも3人に投げないといけない
これは完全な時短策ですね。
よくあるのが左バッターに対する左ピッチャーのワンポイント起用。このルールだとこれが出来なくなります。
特にポストシーズンにおいてはこれが出来ないときついと思います。これは左のワンポイントで起用される投手の職が奪われる可能性があることから選手会側はよい反応を示さないと思います。
NLCS2018のGame5ではウェイド・マイリーが一人への投球でブランドン・ウッドラフに交代したという場面がありました。
2. ユニバーサル・DH
これは投手が打席に入るナ・リーグにもDHの採用をという提案です。
実は筆者はこの記事をすぐに書こうと思ったのですが、いくら調べてもわからなかったのが、この”Universal DH”という言葉の意味。
”Universal”は「普遍的な」という意味はつかめたのですが、何が普遍的なのかがわからなかったです。
でもまあ、複数のサイトを調べたところ、「普遍的」とは要は「ずっと」ということで、つまりはナ・リーグにもDHを通常採用してくれという提案です。
これは時短というよりは、野球を面白くという方向の提案かと思います。
確かに投手は打たない
下のグラフはピッチャーのwRC+のグラフ。
wRC+とは”Weighted Runs Created Plus”。要は打者がどれくらい得点を生み出したかというセイバーメトリクスの指標の一つで、下がっているのをご確認いただくだけで十分なグラフであります。
確かに投手は打ちません。そんなことはわかっていることです。
今は年間を通してインターリーグも行われておりますから、ア・リーグの投手も打席に入ります。
NLのDHに対しては筆者は反対です
あくまで個人的な意見としてお納めいただければと思うのですが、筆者は投手が打席に入るのが非常に好きです。なぜなら本職の打者とはまた違う豪快なスイングが見られるからです。
とくにわくわくするのは、マディソン・バンガーナーの打席であり、レッズのマイケル・ローレンツェンの打席です。
バンガーナーのHR動画
ローレンツェンのHR動画
もともと投手はバッティングがいいというのは周知の事実です。
この楽しみがア・リーグではありません。しかしナ・リーグではカーショウが代打に出たこともありますし、シャーザーがタイムリーを放つこともありますし、ザック・グレインキが右打ちを決めることもあります。
プロ選手が唯一野球少年でいられる瞬間。これがピッチャーの打席だと思っています。だからこれはなくさないで欲しいと筆者は思っております。
【追記です】2019年2月11日
2019年のNLDHはなくなりました。2022年までは実施されないようです。
3. オールスター前のノン・ウェーバーデッドライン設定
”A single trade deadline before the All-Star break”というのは小見出しの通り、今の7月末日のトレード・デッドラインの期限を前倒しの7月中旬のオールスターブレイク前の設定に変えませんか?という提案です。
これも「野球を面白く」という方向の提案でよいかと思います。
MLBのレギュラー・シーズンは162試合。
7月末日のトレードデッドラインの日だとだいたい105 試合目から110試合目辺りで、シーズンの半分を優に過ぎております。
これがオールスター前の最後のゲームの日をその期限とすると、だいたい95試合から100試合のあたりで、今よりも15試合ほど早いくらい設定に。
そうなると移籍した選手がシーズンに貢献出来る期間が長くなることから、そうしませんか?という提案です。
これは確かにその通りかと思います。
ただ、唯一の欠点はオールスター前にほぼシーズンエンドを迎えるクラブがだいたい半数ほど出てきてしまうことになり、そのクラブの観客も減るかもしれませんね。
4. 投球間隔を20秒以内に
これは文字通りの投球間隔を狭めることによって時短を実現しようという対策です。
実はこの他にもこのようなルール提案があります。
- 2019年はマウンド・ビジットを6回から4回、2020年は3回に減らす
- 延長10回以降はランナーを2塁において始めるタイブレーク制の実施(スプリング・トレーニングとオールスターからの実施)
タイブレークにおいては2018年のオールスターから実施となりましたが、ゲームが延長にならなかったため、まだ実施されておりません。
5. アクティブ・ロスターを25人から26人に。投手は最大12人
アクティブ・ロスター枠が1枠増えることで、30クラブで計30人の仕事が出来ることからこれはMLBPAの方でも歓迎されそうです。
ただし、MLB機構側はセプテンバー・コールアップで現状9月に40人に増える枠を28人に減らしましょうという提案も行っております。
この意図はオーナー側への配慮かもしれません。
ただこれをやることでトリプルAクラスにいるプロスペクトのメジャー経験が減ってしまうので、これはMLBPAから弾かれると思われます。
6. ドラフトの上位指名で勝てないチームには罰則を
これはMLBPA側からのMLB機構への提案。現状のウェーバー制に関する一つの視点です。
戦力均衡化で前年の勝率の悪いクラブから上位指名出来るのがウェーバー制ですが、ウェーバー制でよい選手を獲得出来ても何年も下位に低迷するクラブには一定期間を決めた上で罰則をという提案です。
7. マウンドを低くする実験
1968年のシーズン終了後、MLBはマウンドの高さを15インチから10インチに下げました。
15インチ=38.1センチメートル
10インチ=25.4 センチメートル
1968の記録
なぜ下げたのかというと1968年が一言で言うと投高打低過ぎたからです。
ざっとその記録ぶりを見てみると、このような感じです。
- ERA : カーク・ギブソン(STL)1.12 ←304.2 IP
- AVG: カール・ヤストレムスキー(BOS).301
- ERA 1点台:7名
カーク・ギブソンが300イニング以上を投げてERA 1.12です。さすがになんとかしたいと思いますね。そして採った対策がマウンドの高さを低くすること
マウンドが高いとERAの数字が向上
結局、マウンドが高ければ投手優位になるという傾向が顕著だということになります。傾斜がある分だけ勢いがつきますからファストボールのスピードも上がりますし、ブレーキング・ボールの落差もついて打者には打ちにくくなるということかと思います。
反面、肩肘への負担
どんないい投げ方をしてもある程度ボールを抑え込まないとボールは低く走りませんから、どうしても肩肘に負担がかかってしまうのも事実です。
トミー・ジョン手術対策
今回、マウンドの高さを低くするMLB機構側の提案の背景には昨今増加するトミー・ジョン手術への対策というのがあります。
トミー・ジョン手術の要因はそれこそ個人差があります。肘に負担のかかる投げ方をするがゆえUCL断裂、登板後の回復が不十分なゆえのUCL断裂、あるいは昨今の筋トレにより、より強い筋力が招くUCL断裂など。
一概にマウンドの高さが要因とは言えませんが、MLB側としては打撃力のアップで試合を面白くという目論見も入っているようです。
メディカル視点の実験結果
いつやったのかは詳細はログインしないとわからないのですが、メディカルな視点ですでにマウンドの高さの影響を調べたレポートが出ております。
マウンドの高さを15 cm、 20 cm、 25 cm、 30 cmにしてみて、それぞれの高さでファストボールの質、ブレーキング・ボールの質を調べた結果、以下のことがわかっているようです。
肩肘負担の軽減に若干の効果あり
Conclusions
Lowering the mound may not affect a pitcher’s ball movement, but may slightly reduce shoulder and elbow kinetics, possibly reducing the risk of injury.
「マウンドを低くすることによって、ボールは顕著には変化しない。わずかだが、肩肘へのリスクを軽減する可能性はある。」
これからMLBはカレッジ・ベースボールやマイナー・リーグを使って、フラットベースも含めてデータを取るようです。
ちなみにマウンドのリペアやメンテナンスはこのように行います。筆者もやったことがあるのですが、このプロの園芸屋さんと比較するといかに適当だったかというのがよくわかり、胸が痛いです。さすがプロの仕事です。
8 2種目のプロを目指すアマチュアとのメジャー契約の変更
これはずばりNFLとMLBの二刀流を目指す心意気だったにもかかわらず、NFLへの集中を選択したアスレチックス2018年1巡目のカイラー・マーリーのケースを想定した変更の要請。
せっかくの逸材が安全且ついつでもMLBに戻れるようにという制度設計の変更の要請です。
MLBPA側からの提案です。
ナ・リーグのDHに関してはMLBPA側も前向きなようです。ただ、2019はないでしょうね。
何が実行されるのか、またトレースしておきます。
お読みいただき、ありがとうございました。
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