NFLとMLBの二刀流の行方
2018年6月に行われたMLBドラフトでアスレチックスから1巡目、全体9位で指名されたカイラー・マーリー(Kyler Murray)。
“Murray”の日本語表記ですが、「マレー」、「マリー」などいくつかの表記ゆれが出ております。混乱させてしまいますが、ここではあえて発音に近い「マーリー」で表記させていただきたいと思います。
”ray”に引っ張られる形で「ま」と「り」の間に小さい「る」が入るような表記がベストなのですが、それがデフォルトのキー操作で打てませんので、実態に近い「マーリー」で書かせていただきたいと思います。
MLBドラフト時にNFLとMLBの二刀流ということで話題になった選手です。
そのカイラー・マーリーに1つの決断の時期が迫っています。
NFLドラフトに指名される期限が1/14
そのデッドラインとは2019年4月25日から3日間行われるNFLドラフトのためのアーリー・エントリーの期限です。それが1月14日。
(MLB/NFLドラフト時期の違い)
- MLB 6月中旬 (2018年は現地6月4日から6日)
- NFL 4月下旬 (2019年は現地2019年4月25日から27日)
アーリー・エントリーとは?
NFL用語で書くと、”deadline for collegiate underclassmen”で、アンダークラスメンは最初の2年という意味です。高校1、2年に対しても、大学1、2年に対しても使われます。
NFLでは大学生をドラフトする場合、原則、「卒業」しないとドラフトできません。
しかし、「高校卒業後に3シーズンを経過」しさえすれば、例外としてドラフトでピックされる措置があります。それがアーリー・エントリーです。
選手の寿命を考えて早めにプロになることが出来る措置と言いたいところですが、実質は、いい選手を早く囲い込みたいというオーナー側の意向も反映されていると思います。
意思を書面で表して、しかるべきところに提出するという点においては日本のプロ野球の「プロ志望届」に似ているかもしれません。大学3年で行うという点はかなり違うのですが、イメージとしてはそうです。
これを申請していないとドラフトでは指名されません。
カイラー・マーリーは21才でこれに該当し、その意思決定の期限が1月14日。
本人は二刀流の意思が
そもそもカイラー・マーリー自身の意思は二刀流の実現にありました。
ただ、NFLでQBとしてやっていくには最初の数年に覚えることが山ほどあって、これを経験しておかないととてもじゃないですが、QBとしてやっていけません。
さらにその間に厳しいプロスポーツの世界を双方やるというのはとても現実的ではないというのがどうやら見えてきたようです。
もう選択が迫られているということで、気持ちはNFLでQBとしてやっていくという方向に固まりつつあるようです。
コンバインには出場予定
NFLではドラフト選手を対象に、”Annual NFL Combine”(アニュアル・NFL・コンバイン)というのが行われます。
コンバインというのは、「合わせる」とか「連合する」という意味の言葉で、農業機械のコンバインは「収穫する」という意味を持ちますが、NFLのコンバインは基礎体力の測定や、メンタルの検査などが合わせて行われる機会です。テレビ中継されたりするほどかなり注目を集めるイベントでもあります。
それが行われるのが2月26日で、MLBだとちょうどスプリングトレーニングの真っ最中の時期です。
コンバインに参加したいという意思はかなり強いようなので、そうなるともうNFLかなと思います。
サイニング・ボーナスは返還
カイラー・マーリーはアスレチックスからサイニング・ボーナス(契約金とほぼ同義)を466万ドルをもらっています。
仮にNFLに専念という決断となった場合、サイニング・ボーナスはアスレチックスに返還されます。
仮にNFLに行ったとしても
仮にNFLに行ったとしても、アスレチックスは戻る余地を空けておくそうです。
やはりQBとしての才能は感じる
どちらに芽が出る可能性が高いのかというと、やはりQBの才能は感じます。サイズが178cmとNFLのQBとして小柄であることは懸念要素ではあります。
野球は「打てるテレンス・ゴア」
野球の方の才能はどうかというと、とにかく足が速いです。そしてスイングも力強く、ミート力もあります。
フットボールではQBをやっていますが、肩はMLBの一流の外野手に比べると落ちる感じ。
言ってみれば、このオフにカブスからロイヤルズに移籍した「真の意味での」足のスペシャリスト、テレンス・ゴアに打撃力がついているようなタイプ。
アンドリュー・マッカッチェンのようなタイプという言い方の方が的確かもしれません。
NFLモックドラフト
NFLでは記者が中心となって行うモックドラフトというのがあります。
モックは「木型」とかいう意味で、たとえば自動車の新モデルを開発するのに一旦は木でボディーを作ったりしますが、「試作」とか「プロトタイプ」とかそういう意味です。よく「モックアップ」という言い方をします。
ものづくりだけでなく、ITの業界でも新ソフトを開発する際にモックアップをつくってテストをしたりします。主に技術系の現場で使われる言葉です。
そのモックドラフトでは、ニューイングランド・ペイトリオッツが指名するという結果が出ました。果たして本番でもペッツが指名するかどうかは定かではありませんが、1巡目の遅い順番での指名は間違いなさそうです。
オークランドのジャージを着ていたのは?
2018年のカレッジ・フットボールで最も活躍した選手に与えられるハイズマン・トロフィーを受賞し、さらにAP Player of the yearにも選ばれたカイラー・マーリー。
6月のドラフトが終了し、フットボールシーズンが始まる前にアスレチックスで練習していた時の映像がそれです。アスレチックスはドラフト指名後もカレッジ・フットボールのゲームに出場することを許しておりました。怪我のリスクがあったものの、そもそも本人の意思もありますし。
そしてそのフットボールシーズンで活躍し、栄誉な賞をもらったのでした。
過去のNFL/MLB 1巡目指名
ご覧のような選手たちが、過去MLB、NFL双方で1巡目指名か2巡目指名を受けておりました。
ブロンコスのジョン・エルウェイは有名ですね。MLBにいたらどんな選手になっていたのかと思いますね。
筆者が思うに
打算的な発想ですが、単純に息の長さを選ぶのあれば絶対に外野手を選ぶべきです。NFLで35才まで生き残るのはかなり至難の業かと思います。
NFLは特に怪我一発で選手生命が終了ということにもなりかねません。
ただ、本人のQBの動きを見ていると、若い間だけかもしれませんが、やはり野性味があっていいんですよね。
外野手をやるのとQBをやるのとでは、ちょっと面白さが違うのかなと思いました。あの動きが出来るのは万能感を感じて楽しそうです。OFとQBでは仕事の質が違う、そんな感じがします。
そしてマーリーはQBの仕事を好んでいるということかと思います。
お金の面に関して言えば、少しでも長くプレーできる可能性のあるMLBの外野手の方が長期的に見ていいに決まっていますが、体験できること、達成したい領域が違うのかと思います。
まもなく結論が出ます。NFL一本で行くと思われます。
MLBに進んで欲しいところではありますが、NFLに行くでしょう。
追記(2019年1月14日)
アンダークラスメンの選手がNFLドラフトにかかるための申請であるアーリーエントリーの期限を前日に控え、現地2019年1月13日は割とバタバタとした情報が流れました。
そもそもOAKはMLB一本と見ていた
上の方でも書きましたが、MLBに入る前の最後のフットボールシーズンを許したアスレチックスでしたが、これはもうMLBに入ると見込んでの判断でした。
ところが当の本人は予想外に大活躍!最優秀選手賞であるハイズマン・トロフィーを獲得するほどの活躍を見せたことで、NFLへグッと気持ちが傾いたのでした。
おそらくNFLへ行きたいというのは変わらないと思いますし、QBでやる以上は両立は無理とわかっていますから、NFLへ行くことになるはずです。
ではアスレチックスはどうすればいいのか?ということでいくつかのオプションが出ております。
最終決定は2月中旬
1月14日のアーリーエントリーはドラフトされるための申請の期限です。そこから約4週間、ちょうどスプリングトレーニングが始まる頃になりますが、これがMLBに残るかどうかのファイナルの意思決定のようです。
OAKは諦めるしかないのか?
仮にNFLドラフトにかかったとしても、アスレチックスは上述の通り、選択の余地を空けることができるようです。
マイナーオプションを使う!
あらためてマイナーオプションの記事を書きますが、マーリーに関連するところだけ抜粋した形で概要を記しておきます。
(マイナーオプションとは)
- どの選手も一旦40人枠に入れば、3回のマイナーオプションが与えられる(まずは40人枠に入ってからの話)
- 通常は40人枠を外れれば、どこか獲得するクラブがあるかどうかウェーバー公示にかける必要があるが、マイナーオプションはウェーバー公示なしで40人枠から外すことが出来る。
- 1回のオプション使用で、1シーズン分。3回付与されているから3シーズン分使える。1シーズンで1回使った後は、そのシーズンは何度でも40人枠から外せる
- マイナー5年未満で3度のマイナーオプションを消費した場合は特例として4回めが与えられる
番号は便宜上つけているだけでMLBの規約の番号ではありません。
25人枠から外れて40人枠になった時もマイナーオプションを1回消費したとみなされるとか、細かいことはもう少しあるのですがマーリーの場合、1と4が大事になってきます。
メジャー契約する
上記のようにマイナー・オプションを使うためには1度40人枠に入らないといけません。よって40人枠=メジャー契約ですから、アスレチックスはサイニングボーナスとはまた別にマーリーとメジャー契約すれば、この制度が使えます。
マイナーオプションの特例4回を適用
フットボールシーズンを過ごしている間、最高で4年分マイナーオプションを行使出来るわけですから、アスレチックスは最長で2022年まで契約の機会があるということに。
あくまで制度上の話
上記はあくまで制度上、仮にマーリーがNFLへ進んだとしても最長で2022年まではアスレチックスに契約のチャンスがあるということを示しているだけです。
実際はどうなるか、わかりません。NFLへ進んだマーリーが思いもかけず早くにMLBを選び直すこともあるでしょうし、ずっとNFLでということもあり得ます。そうなると、当然制度の範囲内で契約が変わってくると思います。
今のところは、アーリー・エントリーの申請を見守り、コンバインにも参加させ、2月中旬の最終決定まで待つということになりそうです。その間、アスレチックスのことですから、なにかウルトラCを出すかもしれません。ファンとしては待つしかないですね。
追記(2019年1月15日)
現地2019年1月14日、マーリーはアーリーエントリーを提出。そしてアスレチックスにフットボール1本で行くと伝えた模様です。
これでマーリーは結論を出しました。そうなるとサイニング・ボーナスを返還しないといけませんが、手続きはまた後日に明白になると思います。
あとはアスレチックスが余地を残しておくかどうかです。
追記 2019年2月12日
現地2019年2月11日、カイラー・マーリーはフットボール1本に絞ることを好評しました。
これに対してアスレチックスは「彼を指名したことに一切の後悔はない」とさばさばしたコメントを発しております。
サイニング・ボーナスは466万ドルですが、すでに150万ドルが支払われているようで、このうち129万ドルはマーリー側からアスレチックスへ返還される予定です。そして残りの316万ドルはまだ支払われていなかったようで、これは3月1日までに権利放棄となって流される予定です。
お読みいただき、ありがとうございました。
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