2月半ばスタートはなくなった
前日の記事では、現地2022年2月12日に行われたMLBとMLBPAとの団体交渉について書かせていただきました。肝心なポイントのコア・エコノミクスでMLB(オーナー側)が、対案を出したものの、依然ギャップは埋まらずという状況で、このミーティングの結果、スプリングトレーニングがオンタイムのスケジュールでスタートすることはなくなりました。
ワークアウト無しでゲームに突入か?
メジャーの場合、通常、ワークアウトとゲームの双方を合わせて「スプリングトレーニング」と言いますが、「ワークアウト」は2月半ばから始まり、2月終盤からグレープフルーツ・リーグとカクタス・リーグで「ゲーム」が行われます。2月の最終週のゲームはカレッジのチームと試合が組まれることもあります。これらはNPB流で言うなら、キャンプの「練習」と「オープン戦」ですね。
上記の「遅れた」というのは、「ワークアウト」のことです。現地2022年2月13日時点では26日から始まる予定の「ゲーム」はまだそのまま生きています。ただし、これも今後の交渉次第で遅延や短縮も考えられます。
現在のCBA(労使協定)の団体交渉の状況では、ワークアウト無しで、そのままゲームに突入する様相を呈しており、果たしてそんなことはできるのか?という懸念も。
通常の6週間から最長で4週間の準備期間
そして、現地2022年2月13日時点でのベスト・シナリオは、2月終盤までにロックアウトが解除され、26日からゲームがスタートすること。しかし、この時点で準備期間は4週間しかありません。通常なら6週間をかけるところが3分の1も短くなっているのです。
さらに、団体交渉が長引けば、ゲームスタートが3月にずれ込むことも。もうそうなれば、2020年のサマーキャンプ並みの3週間ほどの準備期間ということに。
スプリングトレーニングが短縮されて困るケースが色々と出てきますので、ちょっと思いつく限りの懸案点を挙げてみます。
【1】怪我が増える
スプリングトレーニング短縮により困る点として、1つは怪我が増える点が挙げられます。
10日の会見でマンフレッド・コミッショナーも2020年のサマー・キャンプについて「3週間では不十分であった」とし、それは「怪我のデータが物語っている」と述べたほど、怪我の多いシーズンとなりました。
2020年の場合、4月にピークを合わせて調整してきた選手達が、コロナパンデミックにより、3月半ばに突如、シャットダウンを余儀なくされました。せっかく仕上がってきたのに一度体を冷やされたような状態になり、さらにその後は練習場も限られ、調整するのは本当に大変だったと思います。準備期間だけでなく、そのような要素も怪我の頻発の影にはあったのではないかと思います。
【2】連携、サインの確認時間の捻出
団体交渉ではなんとかスプリングトレーニングのゲーム開始には間に合わせるというスケジュール感で動いており、これは選手が個々に仕上げてくる前提のお話です。もちろん、選手はそうしてくるでしょう。ツイッターでもブルペンの動画やバッティング練習の動画が上がったりしています。
しかし、ワークアウトの2週間が抜けるということは、全体的な守備練習の時間が無くなるということでもあります。いくら出来上がっているメジャーリーガーでもチームとして有機的な動きを確認する時間は必要です。
また、サインの確認は守備体型だけでなく、バッテリー間でもそうです。MLBは普段から出入りの多いロスターとは言え、捕手は味方投手のボールを受けておきたいでしょう。そしてバッテリー間でのサインの確認も重要な要素です。ゲーム中の勝負球の選択にも影響してきます。それを熟成させる期間が短縮されるのは、レギュラーシーズンに入ってサイン違いなどのミスコミュニケーションも出てくるかもしれませんね。
【3】チーム力がわからない
今回のロックアウトの一番の懸念点はこれかもしれません。
仮に2月終盤にロックアウトが解除されたとして、すぐにゲームに参加するのはすでにサインしている選手や、マイナー契約で招待選手に入っている選手のみ。
ゲームを初めたとして、チームの実力がわからない状態が2週間は続くと思われます。
フロント・オフィスはロックアウト解除の途端に選手獲得に走るでしょうが、すぐに合流できるとも言えず、2022年はこの布陣で戦います!というふうにロスターが揃うのはもう開幕ギリギリになるのではないでしょうか?
【4】初メジャーの選手が十分に調整できない(鈴木誠也選手も)
今春が初メジャーとなる選手にとって、死活問題になってくるのが、ゲーム参加の機会が減少し、調整不足が発生すること。
代表的な選手としては鈴木誠也選手。ロックアウト解除直後にサインしたとして、おそらくゲームに参加するのは10日ほどはズレるのではないか?と思います。仮に2月終盤にサインしたとして、ゲームへの参加は3月10日前後になることに。しかもベスト・シナリオとして。
もしそうなると、ゲームに参加するのが20日ほどとなり、他の選手との兼ね合いもあり、30打席も回ってくるだろうか?と懸念します。
2021年にキラリとしたシーンも見せてくれた筒香選手でしたが、そもそも苦戦した原因は2020年にスプリングトレーニングが途中で途切れ、十分にメジャーの投手を見る機会がないままレギュラーシーズンに突入したからという点もあったのではないか?と思います。筒香選手の1年目(2020年)のスプリングトレーニング(2月/3月)での打席数は28でした。もう少し速いボールに接する機会が増えていれば、タイミングのとり方もすぐに変えたかもしれません。
鈴木選手はじめ、ルーキーは事前に色々と情報は仕入れておいてもらいたいですね。健闘を祈るばかりです。
【5】ファンの楽しみが減る
アメリカではスプリングトレーニングは割と人気です。理由は一流選手とコミュニケーションできる機会が多いし、ゲームでもすぐ近くでプレーを見ることができるから。
現時点ではゲーム数に変更はありませんが、ロックアウトの状況次第では減る機会があり、そうなるとファンにとってはとても残念なことです。クラブ側もチケット収入が減ります。
なんとか早期解決に至ってもらいたいものです。
【番外編】ナイキ、ニューエラが大変
なお、これはスプリング・トレーニングというよりは、ロックアウトによる影響になりますが、ナイキ、ニューエラなどオーセンティック・アパレルを提供する会社がかなり大変なことになると思います。
ロックアウト後に嵐のようにディールが決まることで、選手の練習にも間に合わせるために短納期で複数パターン、複数着を用意せねばなりません。もう関係者は今からゾッとしているでしょうね。
お読みいただき、ありがとうございました。
コメント
スプリングトレーニングインバイティーはトライアウトを受ける期間が短くなりますね。彼らは例年でも20打席をもらえるかどうかで生き残りを争っているんですけど。スプリングトレーニング中のカットが規制されて、マイナーのゲームで継続してトライアウトができればいいんですが。
>例年でも20打席をもらえるかどうかで
確かにそうです。NRIは過酷ですね。途中でカットされることもありますし。
コメントありがとうございました。